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第40話(蜜月編)

「いや、そろそろ朝食の時間だろう。無理では無い」  時計を見ると起きるのに丁度良い時間だった。 「そうか…それならば良いのだが」 「シャワーを浴びて朝食に行く支度をしよう。どうせなら一緒に入るか」  笑みを含んでそう囁いた。 「それは…駄目だ。もし一緒に入ったら晃彦としたくて堪らなくなる」  真顔で言う彼に愛しさが募る。  夜しか行為をしてはいけないという訳では無いが、朝から行為に雪崩れ込むのは少々憚られる。  交互にシャワーを浴び、朝食用の服装に着替えた。自分ではネクタイを締める事が出来ないので片桐にしてもらう。  ダイニングに行くと、オブライエンが居た。昨日片桐には注意を喚起したので大丈夫だと思うが、油断はならない。 「おはよう。昨日の迷子は大丈夫だったのか」  そう片桐に声を掛け、自分のテェブルに座るように手で促す。  やむを得ず、オブライエンの隣に自分が座り、少しだけ片桐との距離を遠くした。 「おはよう、加藤君」  そっけない口調で挨拶され、その後の会話も片桐に向けての質問が多かった。勿論見詰める時間も。  片桐もこの期に及んでその事に気付いた様だった。会話を自分の方に振って来る。この様な場所ではにこやかに会話をするのがマナァなので、答えを返す。主にミスズの件が話題だったので自分も話しに加わる余地は充分有った。  しかし、オブライエンの視線は片桐の顔や身体を執拗に見て居た。不快には思ったが、どうする事も出来ない。  片桐もその空気を察した様で、彼にしては早い速度で朝食を口に運んで居る。  オブライエンの存在で食欲が出ない。手を付けてないオムレットの皿を給仕に下げて貰った。朝食は諦めて珈琲を注文した。その様子を片桐が眉間にしわを寄せて見ている。  珈琲を飲み終わる。片桐は自分の皿を全て下げて貰うように給仕に言った。 「食事はもう終わりかい。ならば後ほど談話室で話そう」  オブライエンが無理に笑顔を作っているような感じで片桐に言った。 「はい。分かりました。十時頃に談話室に行きます」  そう言ったのを潮に、二人して席を立つ。  談話室で話す事を受諾した片桐の本心は分からないので苛立ちは募った。  廊下を歩いていると、片桐が囁いた。 「晃彦の思った通りかも知れない。昨日まではただオレが話す日本の伝統文化の話しに興味を持っているだけだと思っていたし、身体を触るのも英国人の習慣だと思っていた・・・。  今日は晃彦も話しに加わっていたのに、オレの目を見る時間の方が長かった。  オブライエンの気持ちが本当のところ・・・どうなのかを談話室で聞いてくる積りだ。もし、晃彦が昨日言った通りだったら、きちんと断る積りだ。オブライエンがオレに恋愛感情がないなら邪推するのも悪いと思う」

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