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第41話(蜜月編)

 邪推では無い自信は有ったが完全ではない。  それにしても片桐らしい即断即決だった。自分が惚れた潔さは健在だと先ほどの苛立ちが雲散霧消する。  片桐がオブライエンと話す為に部屋を出て行ってから、自分も談話室に行きたい衝動を何度も堪える。いっその事変装して…とまで考えたが、片桐が1人で行く事を望んだ以上彼の意向に沿いたかった。  落ち着き無く部屋の中を歩き回ったり、珈琲を頼んだりして時間を潰す。時計の針が意地悪をしているかの様にゆっくりしか進まない事にすら腹を立てていた。  昼食の時間になったが、彼は未だ戻って来ない。朝食を充分に食べていなかったので空腹を感じた。――こんな時でも腹が減るのだな――  多分、片桐は話が終ると真っ直ぐに部屋に戻って来るだろう。ダイニングに行って、サンドウイッチを二人分自室に運ぶように給仕に頼んだ。珈琲は苛立つ自分が飲む事を予測して10杯分依頼した。  流石は日本の誇る豪華客船の食事だけあってサンドウイッチは綺麗に盛り付けられていた。空腹だと思考がどうしても悲観的になる。盛り付けられている内の減っても綺麗に見える部分を選んで二つ程食べた。  片桐が選んだのは談話室だ。彼なりの配慮だろう。あそこだと二人きりに成る事は無い。船室だと何をされても人目にはつかないのだから。  船室のドアがノックされた。時計を見れば13時を回って居た。 「片桐か」 「そうだ。晃彦、開けて呉れないか」  急いでドアを開けると、困惑した顔の片桐が立って居た。 「食事を用意して貰っている。食べながら話さないか」  強いて微笑を浮かべて言った。 「有り難う。先に珈琲でも飲ませて呉れると有り難い」  部屋には珈琲の香りが漂っているのを察したらしい。そのまま安楽椅子に疲れた様に座り込む。  片桐用にと取っておいたカップに珈琲を入れた。かなり疲れている様子だったので、砂糖を何時もより多めに入れた。 「で、どうだった」  珈琲を飲んでいる敢えて明るく聞いた。 「やはり晃彦の思った通りだった。相手は外国人だ。単刀直入に聞くのが良いと思って、『オレの事をどう思っているか』と聞いた。すると『友情以上の感情を持って居る』とウインク付きで言われた。」  予想していたことなので矢張りと思った。視線で先を促す。 「気持ちは有り難いが、オレには一生を共にしたい人間が居ると言ったら、婚約者でも居ると思ったのだろう。 『結婚しても別に逢って呉れれば構わない』と。結婚は出来ない相手だと言うと不思議そうな顔をして居た。『片桐家の嫡子なのだから結婚するのが当たり前だと思っていたが・・・もしかして男性か』と聞いてきたので、そうだと答えた」

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