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第42話(蜜月編)

「すると、『日本ではそういう文化も有ると聞いて居るから驚きはしない。ただ、私もこのまま引き下がる事はしたくない。相手は誰だ』と怖い目をして聞いて来たので、曖昧に笑ったが、『もしかして、同室の彼か』と。 返事に困ったのを見たのだろう。分かって仕舞った様だった。 『では彼に伝えて呉れ。このまま私も引き下がらない。貴族に相応しく決闘をするというのはどうだ』と。『より想いの強い方が勝者だ』とも言っていた」  眉間にしわを寄せた片桐が言い終わるのを待った。 「そうか。決闘は何ですると言って居た」  暫く躊躇っていた片桐は言った。 「西洋の剣術だ」  剣道なら幼い頃から習っていたが、学校でも初代院長の意向で西洋のスポーツは授業には入っていない。しかし、逃げたと思われるのも業腹だ。 「分かった。オブライエンには承知したと伝えてくれ」  片桐は驚愕の眼差しで言った。 「晃彦…西洋の剣術はした事があるのか」 「…無いが、逃げたと思われるのは癪に障る。片桐の為にも今から誰かに教えて貰う事にする」 「…そうか。晃彦の意向を尊重する。是非とも勝って欲しい」  片桐は半ば嬉しそうに、半ば儚げに微笑した。  船室に静寂が漂った。お互い考えに沈んで居る様子だった。  自分は――最愛の片桐が賞品の様に考えられるのも腹立たしかった。しかし、片桐が了承して来たのなら、それに従う他は無いとそして勝ってみせるしかない――と思って居た。  片桐は何を考えて居るのだろうか…。自分の事を案じて呉れているのだろうか…。  その時、船室のドアがノックされた。 「メッセージで御座います」  船員の声に思索から覚め、扉に向かった。手渡された紙片には林氏の筆跡でこう書いて有った。 「お礼に伺いたいと思ったのですが、特等船室には入る事が出来ませんので、お手数ですが、二等船室の私の部屋までお出で下されば重畳です」  大体この様な中国語だった。片桐にも当然見せる。 「此処で考え込んで居ても仕方ない。行って見るか」  片桐が言うので、彼に昼食を食べさせてから出掛ける事にした。  昨夜訪れたので船室は分かる。二人して、二等船室の区画に入ると、どちらからと無く手を繋いだ。昨日見たところでは二等に見知った人が居なかったので。  片桐の少し冷たい手を握って、思い切って聞いてみた。 「どうしてオブライエンとの勝負断らなかった。どう考えても向こうが有利なのだぞ」  少しの沈黙の後、片桐が口を開く。 「一番の理由は、晃彦を信じているからだ。……それに、彼はオレが戸惑うと『お前の恋人は卑怯者か』と言った。それが許せなかった。オレはどう思われても良いが、晃彦をけなされるのは我慢が出来なかった。それで、晃彦の意向を聞いてからにしようと思った」 「卑怯者と言われた事を黙っていたのは、俺が余計に立腹すると思って黙っていたのか」

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