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第43話(蜜月編)

「……そうだ」 「そうか…」  片桐の手を強く握り締めた。 「この船の中にはフェンシングが強い人間が多分居るだろう。剣道とは違うが…コツがある筈だ。そんな人間を探し出して教えを請おう」 「…そうだな。オレも練習は手伝えると思う」  自分も片桐も剣道には自信が有る。しかも、藩によって流派が違うので自分の流派と彼の流派は違う筈だ。二人で考えれば何とかなるかも知れない。  無言で手を繋ぎ、美鈴の船室に行った。ノックをし、名を名乗ると美鈴が笑顔で迎えて呉れた。美鈴は、片桐の手を繋いで船室の奥まで連れて行く。父母に自分達の来訪を告げて居るらしい中国語が聞こえて来た。昨日は天狗のお面しか見ていなかったが、ふと見るとフェンシングの剣と思しき物も壁に掛かって居た。しかも装飾用では無く、使い込んでいる感触だった。  直ぐに美鈴の父母が出て来て丁重な中国風の挨拶をしてくれた。 「昨日は取り乱しておりまして母国語しか出てきませんでした。今日は落ち着きましたので日本語で大丈夫です。それはそうと、お礼に何か差し上げましょう。商売柄珍しい中国の翡翠の璧などは」  美鈴が無事に父母の許へと戻るだけで、高価な礼など不要だと思っていたが剣を見て気が変わった。 「当然の事をした迄です。宝石も謝絶致します。ところであの剣ですが、フェンシングの剣ですか」 「そうです。しかし、あれは美鈴が一番良く使います。我々の世代は漢民族の間で使われていた唐剣を習いました。清は元々満州民族が作った国ですから、唐剣は使わないのですが。ただ、唐剣とフェンシングは良く似ているので美鈴には世界で通用するフェンシングを習わせております」  一筋の光明が差したように思った。隣では片桐も同じ思いで居る筈だ。 「美鈴ちゃんはお強いのでしょうか」 「我が子の自慢は聞き苦しいかと思いますが、そうそう、日本語では『親の欲目』と言いますな…。しかし、美鈴は語学力と運動神経は4歳の子供とは思えないのです。しかし、日本語では『二十歳過ぎればただの人』という、ことわざも有った筈」  苦笑して美鈴の父は言った。 「では美鈴ちゃんは唐剣とフェンシングの両方を学んでいて、しかも両方とも上手だと」  片桐が尋ねた。 「唐剣の方は、私が教えました。私はいささか自信が有りましてその世界では有名でしたが、美鈴には負けます。フェンシングも美鈴は国際大会で優勝経験が有ります。勿論、子供の大会ですが…」  何故、この話題が出たのか怪訝そうに美鈴の父が答える。 「実は、よんどころ無い事情が有りまして、フェンシングの練習をしなければならないのです、しかも緊急に。お礼代わりに唐剣とフェンシングをみっちり教えて戴ければ幸いです」  頼んでみると、意外そうな答えが返って来た。

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