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第44話(蜜月編)
「その様な事が御礼に成るのでしたら、私も美鈴もお手伝い致します」
片桐と手を繋いでいる美鈴もにこにこと笑って頷いていた。教えて呉れるらしい。
片桐の顔を見ると彼も意外な成り行きに驚いているようだったが、喜色を浮かべていた。
「私にも教えて貰えませんか」
片桐も熱心に請うた。
「分かりました。ところでお二方は剣道の嗜みは御座いますか」
「剣道なら…少しは自信が有ります」
そう答えると、片桐も頷く気配が有った。
「それならば、短期間で習得出来ます」
値千金の言葉だった。
「早速、今日から…ではご迷惑でしょうか」
「とんでも御座いません。美鈴が御世話になった恩人ですから、早速伝授致します」
そう言うと、フェンシングと唐剣を持って、親娘は部屋を出る。慌てて後を追った。二等の区画にも運動室は有る。そこに行く積りらしかった。
運動室に着くと、幸いな事に人はまばらだった。
林氏が言う。
「剣道は良く知りませんので型を見せて貰えませんか」
当然竹刀も防具は無かったので、フェンシングの剣を使って片桐と二人で打ち合った。剣が当れば当然怪我をするが、自分も片桐も剣道は幼い頃から武家華族の慣わしでみっちりと習っている。「見切り」と言って相手に怪我を負わせない様な方法も当然知っていた。ぎりぎりで剣を逸らす方法だ。
美鈴も林氏もその様子を凝視していた。
「分かった」
美鈴が愛らしい声を上げてまず片桐に、次に自分に微笑みかけた。
「剣道は真っ直ぐ立ってするものなのね。そして剣も真っ直ぐに動かすのがルールなのかなぁ。フェンシングは、真っ直ぐ立ってするものではなくて…。そして剣は曲がる様に動かすの」
その言葉に林氏は頷いた。
「剣を曲線に動かす事です。身体も姿勢を様々に変えます。加藤様の剣筋は中々の物、7日程お時間を戴ければ矯正は可能かと…」
頭を下げて改めて二人に向き合った。出来るだけの時間、お教え願います」
二人が頷くのを確認してから片桐に言った。
「オブライエンに、8日後勝負すると伝えて呉れ。くれぐれも人の多い所で伝える事を忘れるな。それと防具はお互い無しで戦おうと」
片桐は頷くと気遣わしそうに振り返り振り返りしながらその場を去った。
剣道にも突きの形は有る。幕府時代は徳川家にしか教えられなかった柳生新陰流もこのご時世では一般に教えられている。突きが上手いのはこの流派だ。幸い徳川家にしか伝わらなかった流派とはどういうものか興味が有って道場には通っていた事も有る。そして新選組局長近藤勇が宗家だった事で有名な天然理心流も突きは得意だ。こちらも興味が有って通った事が有る。
問題は直立姿勢が癖になっている事だが、それを七日間で矯正すると勝率は上がりそうだった。
何としてもこの姿勢だけは直さなくてはならない。
美鈴と打ち合って見た。確かに彼女は曲線で動き、しかも色々な体勢で仕掛けて来る。しかも剣が軽い上に剣先が撓るのでの竹刀に慣れた自分には相手の攻撃パターンが読めない。
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