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第46話(蜜月編)

――明日は筋肉痛でもっと辛いだろうな…――  そう思って浴室から出た。 「あれ程運動して、身体の方は大丈夫なのか」  バスロウブをまとって浴室のドアを出ると、彼は浴室の扉が一番良く見える場所に佇んでいた。 「運動不足だろうな。身体中が熱くて、眠りたいのに眠れそうに無い」  自嘲気味に笑うと、片桐は「そうだろうな…」と真剣な顔で呟き、浴室に姿を消した。  バスロウブのままベッドで休んでいると、片桐が浴室から出て寝室に近付いて来る気配が有った。  まだ、明かりは落として無い。片桐も自分と同じ姿だった。ベッドの横でバスロウブを脱ぐ片桐の姿を瞠目して眺めていた。  下着だけになった片桐は、唇に触れてからベッドに入って来る。普段なら「お誘い」だろうが、それにしては片桐の表情に違和感が有った。唇も心なしか普段よりも冷たかった。彼はそっと両手を差し伸べ、身体を起こさせた。そしてバスロウブを脱がせる。脱がせた後は自分がベッドに横たわり、何も言わずに両手で自分を誘った。  彼の身体に密着させると、彼の身体はとても冷たかった。 「もしかして、水を浴びて来たのか」  頷いた片桐は無言で両手を腕に絡め、両足も足に絡めた。全身が冷たい彼の身体を感じる。片桐は動かない積りらしい。身体を冷まして呉れるのが目的なのは明白だった。  心地よい冷たさが全身をひたす。身体が楽になった様な気がした。だが、直ぐに片桐の体温は平温を取り戻す。すると、黙って彼はそっと身体を離し浴室へ向かった。  彼の肌の冷たい感触が余りにも心地良かったので、彼が風邪を引く事を危惧しながらも、彼の肌を求めて仕舞う。  直ぐに戻って来た彼は、また同じ動作を繰り返す。お互いに無言で皮膚だけを密着させる。唇を合わせると、彼の思いやりが伝わって来るかの様だった。片桐が何回浴室で水を浴びて来たのか、数える余裕も無く睡魔が襲って来た。 「有り難う」  そう囁くと、「それはこちらの挨拶だ」と耳元で囁かれた。  ただ、眠りに堕ちて行く前には身体の熱さも軽減している事、そして何より彼の為に稽古を今日以上に頑張ろうと決意した事だけは脳裏に焼き付いた。  船室の小さな窓から朝日が眩しくて目が覚めた。時計を見ると朝食には随分早い時間だった。  隣には眠っている片桐の愛しい顔が呼吸も混ざって仕舞ってしまうのではないかと思われる程近くに有った。  ――そうか、昨夜片桐が自分の身体で冷やして呉れたのだったな――と寝起きのぼんやりとした頭で考えた。  試しにそっと片桐の身体を触ってみると心なしか何時もの彼の体温より低い感じがする。  ――もしや、自分が眠って仕舞ってからも冷やす為に彼は寝入る前まで同じ事を繰り返してくれたのではないのか――  その様な危惧の念を覚えた。身体を更に密着させる為に抱き寄せる。眠った彼を起こさない為にゆっくりと。

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