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第47話(蜜月編)
上半身を密着させて抱き合った。彼の幾分細い髪に顔を埋めた。石鹸の清潔な香りを楽しんでから、目蓋に口付けた。
彼は目を閉じてされるがままにしていたが背中に回った腕の力が強くなって行く。睫毛に舌を這わすと、繊細な感触が感じるのだろうか潜めた吐息を洩らした。睫毛だけを口中に入れ舌でくすぐると、吐息が湿り気を帯びるのが分かった。左の目も同じ様に触れた。
それだけで、彼の体温が少し上昇した様に思う。背中に回った腕の力が強く成る。
ひとしきり彼の睫毛を口で味わい、目の下に唇を落とす前に彼の表情をそっと窺う。
微笑を浮かべている少し弛んだ唇が何時もより色付き、誘っている様に見える。直ぐに唇を合わせたく思ったが、彼の目の下が気になって入念に辿る。昨夜の睡眠不足のせいだろうか、少し色が変わっているので、緩和させるように丁寧に唇と舌で啄ばんだ。
そこは皮膚が薄いせいか顔の他の部分よりも敏感らしい。背中に回った手の強さがそれを教えて呉れる。唇を離して彼の身体を見た。彼の上半身はしっとりと汗で潤い、朝の光を浴びて何時もよりも艶っぽく感じる。
目の下の色も触れられたせいだろうか、血色が戻って来た様に思えた。
一度強く抱き締め、体温を分かち合う。汗で潤んだ皮膚の感触が心地良く感じる。彼の身体から蒸発する石鹸の香りと彼の汗の香りが程好く混ざり魅惑的な香りがした。
細く湿った吐息を洩らす唇に自分の唇を重ねた。彼の呼気が自分の口に吸い込まれる。そのあえやかな感触が感じやすい口の中を微妙にくすぐる。直ぐに我慢が出来なくなって彼の唇の中に舌を入れた。待ち構えて居たかの様に彼の舌が絡み付いて来た。お互いに舌を戯れの様に触れ合わせ、互いの想いを分かち合おうとするように絡ませた舌を無心に吸う。
下半身はお互い熱く成っていたが、敢えてそれには直接触れず口だけで交わる様にお互いを貪った。――下半身を触れ合わせるとそれだけで登り詰めるかも知れない――少なくとも自分はそう考えた。それでは呆気無さ過ぎる。極みの時間は出来るだけ長く引き伸ばしたい。そう願って居た。
舌の戯れで、彼の開いた唇からどちらの物とは分からない液体が彼の唇から零れた。それを入念に舌で舐め取る。この上無く美味に感じる。
唇を名残惜しげに離すと、彼の腕の力はより強く成った。――もっと…――と請われていると分かったので、今度は唇に歯を立てる。勿論弱くだったが。すると、彼の身体が少し反った。もう少し強い力で甘噛みすると、湿った吐息にまるで色が付いているかの様に彼が感じて居るのが分かる。
そのまま首筋に唇を這わし強く吸った。その後紅い痕が消えない鎖骨の部分を更に咲かせようと試みていると、今まで黙っていた彼が細く呟いた。
「身体の全て・・・で、晃彦を…感じたい」
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