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第51話(蜜月編)

 自分でも滅多に触れない場所に、指の戯れを感じたことと、指の蹂躙を許した事がかれの羞恥心を煽ったのだろう。  身体中を薄紅色に染めた彼は表感じ切った情を隠す為か、肩口に顔を埋める。  彼の腰に腕を回し落ち着くようにと、強弱を付けて抱き締める。暫くの間そうして居ると、彼は耳元に湿度を孕んだ囁きを呉れた。 「先に浴室から出ていて呉れ」  欲情を露わにして居る顔を見せたく無いのだろうと頷いた。簡単に汗だけ流して浴室から出ようとすると、彼の両手が肩に掛かり引き止めて呉れる。  背後から呟く声がする。 「今までの内で一番感じた。これからはあんな風にして欲しい」 「俺もだ。ではその様にする」  実は、今回の交情が一番感じたわけでも無いのだが、片桐が悦ぶのなら今度からはああいう風にしようと決意した。  彼の身体も交情に慣れてくれて激しくしても大丈夫らしいのは大歓迎だ。  彼の内部を清めたいという欲求は叶ったが、自分の放った欲望の証を彼の身体に何時までも留めておきたいというのは、単なる子供じみた我がままなのかと微苦笑を漏らした。  船室の居間部分で朝食用の服に着替えて居ると、バスロゥブ姿の片桐が姿を現す。  彼の顔は、表向きは殆ど欲望を湛えて居なかったが、多分口付けをねだるだろうと予測していたので抱き寄せて唇を交わした。  彼も唇を半開きにし、舌を少し出した。  出ている部分だけを吸って居ると、彼の肩が大きく震える。  これ以上すると、まだお互いのの心中に有る欲望に残り火が付きそうなので、しぶしぶ唇を離した。  片桐もそれは分かっているようで、大人しく身体を離し目蓋を紅色に染めながら身支度をして居る。  やはりネクタイを締めるのは苦手だったので、片桐に頼んだ。  片桐の身支度も終わり、ダイニングに行った。  運が悪いと言うべきか、朝食の時間船の都合が決まっているからなのか、オブライエンの姿が見えた。  先方が挨拶をしてきたので仕方なく笑顔で朝の挨拶をする。彼は陽気に自分のテェブルに誘って来た。やむを得ず同じ席に座るのは構わないかと片桐に視線で問う。彼は小さく頷く事で意思表示をしてくれたので、着席した。  彼は片桐の目蓋と、首筋に意味有り気な視線を走らせた。どこかしら情事の名残りが残っているとは思って首筋を見る。紅に染まっている箇所が有った。それに甘い雰囲気は分かるだろうと思った。オブライエンは同性愛者らしいので余計に観察が細かい筈だ。  少し優越感に浸った。オブライエンに対して牽制の意味を込めた視線を送るが、彼はそれには動じずに旺盛な食欲を示し、口に物が入って居ない時に決闘の件を持ち出して来た。  フェニシングの事を話しながらも、オブライエンは片桐の首筋に刻印された紅い情痕を余裕の笑みで見詰めて居る。余裕ではなく、もう直ぐ自分の物になるという自信からなのかも知れない。彼は物ではないので、万に一つも負けられない。視線が余りにもあからさまだった。

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