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第55話(蜜月編)

 タオルも心地よかったが、時々触れる彼の冷たい指先の方が疲労を回復させて呉れる様だった。  次に渇いたタオルで濡れた箇所を乾かして呉れた。時々、彼の指先が身体を掠める。心底心配してくれているのが肌で分かる様な気がした。  現金にも先程の自嘲は雲散霧消し、稽古をみっちりつけなければならないとの決意が更に固くなった。  昼食が運ばれて来る。過度の運動は食欲を減退させるが、食べない事にはこの先の練習に差し支えが有る。無理に口に運んだ。横に座った片桐の案じるような視線を感じたので、大丈夫だとの暗意の表情で微笑した。彼は慈愛の微笑みを返して呉れた。  昼食を味わいもせずに咀嚼した。その代わり水分を普段よりも多く摂る。摂り過ぎは身体が鈍るので、計算して飲んで居た。  隣に座った片桐は時折心配そうな顔をしてこちらをさりげなく凝視している。  一番食べるのが遅かった美鈴を待って、練習場に戻った。林氏と美鈴が先を歩いていたので、二人きりの会話が出来た。 「タオルで拭いて呉れて申し訳ない」 「いや、元々の原因はオレにあるのだから気にするな。毎夜オレの身体で晃彦の身体を冷却したいと考えて居たのだが・・・」  心を丸ごと開け放った様な微笑を浮かべて言った。 「それは不可能だろう。今日は八時以降練習に付き合って貰うと…」 「ああ、オレで良ければ付き合うが…ではせめて、一緒に浴槽に入り、筋肉を解した後、冷水欲をしよう」  そんな事を話していると練習場に着いた。  今度は林氏とフェニシングの剣で打ち合う順序だった。  剣先は敢えて集中せず、相手の姿勢から判断する様に意識して変えた。  相手の剣が何処から来るのかをこの二日間の練習で何となく分かって来た様な気がした。相手の身体がどう動くのか、相手を良く見て即座に判断する。此処までは剣道と同じだ。曲線を描く剣先にもようやく慣れて来た頃、自分の顔に汗が浮かんで居ない事に気付いた。 ――これが美鈴の言う集中か――  少し会得したような気がした。  すると、練習場の扉の方で、高貴かつ綺麗な英吉利語の賛美と共に拍手が聞こえてきた。  練習場は自分を含め四人しか居なかったので、皆が一斉に振り向いた。 「懐かしい音が聞こえてきたもので、つい立ち寄ったのだが素晴らしい試合だった」  質素な服装ながら、気品の溢れる英国老紳士だった。 「このような所で本格的な試合を見る事が出来るとは…」  流麗かつ気品溢れるクイーンズイングリッシュだった。完璧な英語に誰もが口をきけなかった。

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