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第69話(蜜月編)
「もし、俺が負けて、お前が死を選ぶのなら迷わず俺も後を追う積りだった」
万金の重みを込めて言い切った。
「それは薄々分かって居た。だから何としても晃彦に勝って欲しかった。オレも晃彦なしでは生きていけない。二人一緒に居る事がオレに取っては一番重要な事だ」
呟く様に言った片桐に、力強く頷いた。
「何処でも良い。お前さえ居れば…日本でも英吉利でも無い国でも…」
そう断言すると、彼は花が綻ぶ様に微笑する。
「オレも同じ気持ちだ…。多分晃彦が居なければオレも生きていようとは思わない」
長い睫毛越しにきっぱりと断言して呉れる。
「もう、あんな挑発には乗らない…。お前の為にと思ったが…余計な心配を掛けた。申し訳無い。ただ、お前の魅力に抗えない人間が出て来ると思う。浮気…を心配している訳では無いが…気を付けてくれ」
心に思ったままの事を言うと、彼は眉間に少ししわを寄せて納得出来かねる顔になったが――多分、彼は「自分の魅力には無自覚」なのだろうと思ったが今回の件で少しは分かった様な気になったのだろう――
「ああ、晃彦がそう言うなら…」と少し腑に落ちない顔をして言う。
その言葉を聞いて少しは安堵した。ただ、英吉利に行ってからも多分同様の事が起こるに違いないとは思ったが。
食事が済むと、立ち上がり彼の少し薄い肩を掴んだ。そのまま首に手を回し彼の顔をそっと上に向けた。
彼も、唇に指を当てている。
穏やかな口付けを交わしながら、彼の手を取って寝室に誘った。
ベッドに横たえて、彼の服をゆっくりと脱がして行く。彼も同じ動作を返して呉れた。
全ての着衣を脱ぎ終えると、彼は首筋に口付けをし、沁沁と呟いた。
「この香り、やはり好きだ」
その声に誘われて肌が隙間無く重なる様に力強く抱き締めた。
「そうか…それは嬉しい」
彼の肌に口付けを落としながら耳元で囁いた。ついでに耳たぶを甘噛みすると、肌にしっとりとした汗の膜が出来ている事に気付く。
そういう意味で彼に触れたのは随分前の事の様に思える。実際は7日程度だったが。
いつも唇を落としていた鎖骨の上の赤い痕も少し色褪せているように思う。啄ばんで強く吸ってから歯を落とした。すると、彼の身体に鳥肌が立つ。寒いのかと思って良く見ると身体中がほんのり薄紅色に染まって居る。自分の身体に当る、彼の最も魂に近い場所も自分を求めて居るのが分かった。
「今日は…強く…晃彦を…体内で…」
息を乱した彼の言葉が脳髄を直撃した。
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