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第70話(蜜月編)
――何か滑る物を――
半分麻痺した頭で考えた。そして耳元で囁いた。欲情の余り掠れた声になる。
「少し待って居て呉れ」
そう言って、強く抱き締めた後、浴室に入り、水に濡らした石鹸を持って来た。彼の腰の辺りに枕を敷き、自分に取っては天国のような場所を露出させる様に唆す。
「もう少し、両手を遠ざけて呉れないか」
彼は頬を真っ赤に染めて指の侵入を助けるべく、秘められた場所を少しでも広くしようと試みた。
石鹸で滑る右の中指をそっと忍ばせる。彼も欲望の故か、それとも自分に釣られたのかは分からないが両足を折り曲げて、限界に近い位に広げて呉れた。
彼の内部が少し見える。そこは自分を誘い込もうとするように紅色の花が動いているかの様だった。そっと指を入れると、滑りが良くなっているせいですんなりと迎え入れられる。第一関節を上向きに曲げた。其処は彼の弱い場所である事は良く知っていた。案の定、彼は言葉に成らない吐息めいた声を出すのと同時に身体を細かく震わせた。彼の欲望の証も先程よりも露骨に主張している。
内部は熱いがしんなりと纏わりつき離そうとはしなかった。少し意地悪をしようとある一点から少し外れた箇所を刺激する。すると、彼は身体を少しだけ動かして先程の箇所に導く。
吐息が湿度を増したように思えた。
二本の指で蹂躙すると、彼は紅潮した顔を隠したまま、有るか無きかの声で嘆願した。
「…もっと…っ」
その様な声で言われるとこちらも我慢が出来なくなってしまう。
「俺をお前の中に…挿れても…」
「…いい…」
そう言ってから、彼は自分の身体を押さえて居た手を離すと首筋に絡めて来た。心まで吸い尽くす様な口付けを交わしながら、彼の最も愛しい場所にそっと挿れる。
先程まで指で押して居た箇所を自分自身で突く。その一突き毎に彼の背中が電気にでも当ったかのように撓る。
内部は彼がどれだけ受け入れたかったのか知らしめる様に感触と力加減が絶妙だった。吸い寄せられる様に奥へと進む。始めは彼が傷付かない様にとゆっくりと…。彼の表情を観察しながらだったが、内部が誘うように伸縮し彼の隠しきれて居ない顔が苦痛ではなく快楽を浮かべているのを確認すると自省が効かなくなった。
思い切って力強く彼の内部を貫いた。
お互いの腰骨が当った瞬間、彼は頂点を越えた。切羽詰った息が吐き出され、白い粘液が彼自身と自分の身体に飛び散った。その瞬間、彼の内部も同じ物を欲しがる様に最も心地よい収縮を繰り返していた。其処にも意思が有る様だった。
必死の思いで耐える。
彼は一回絶頂を極めたのだから弛緩して当然だったが、そうはならなかった。
「もっと」
熱に侵された病人のようなうわ言めいた声が細かく震える唇から漏れた。 そうかと言って、彼の身体に負担を掛けるのは本意では全く無い。
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