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第74話(蜜月編)

「お早う。身体は辛くないか」  唇を奪ってから聞いた。 「ああ、多分大丈夫だ」  そう言っては居るが、少し動きが緩慢だった。  昨夜は二人の行為における彼のダメージが気に成った。 「午前中はベッドの中で休んでおく方が良いな」  眉間にしわを寄せてアドバイスすると、彼も矢張り辛いのだろう、黙って頷いた。 「部屋に食事を運んで貰おう」  彼の今の姿を誰にも見せたくないので、ダイニングに行き部屋に運んで貰える様に頼んで来た。食事が運ばれて来ると扉の近くで受け取り、食事は寝室に自分で運んだ。  彼はベッドに半身を起こしたが、いつもの機敏さは無かった。 「食べられるか」  そう言ってベットサイドにあるテーブルに朝食を二人分置いた。 「大丈夫だ。食べる事くらい自分で出来る。それにこの様な事になったのはオレが望んだ事でもあるし・・・」  彼らしい潔さの発言と共に、そうふわりと微笑むと食べ始めた。自分も倣う。食事が済むと、彼を無理やりベッドに押し込んで、念の為鎮痛剤を口移しに飲ました。自分はベットサイドで倫敦大学の講義内容についての案内書を読みながら彼の様子を窺っていた。  特に言葉の無い時間が流れる。触れ合うのも良いが、こうした静謐で親密な時間も悪く無いと思ってしまう。  昼食の時間が来たので彼に尋ねた。 「昼食も部屋に運んで貰うか」 「いや、もう大丈夫だからダイニングへ行こう」  部屋から出る為に身なりを整える。尤もネクタイだけはまだ結べる様になっていないので彼に手伝ってもらう。片桐は平常と変わりの無い動作だった。自分に心配を掛けたくないためにそう振舞っているのでは…と危惧したが、どうもその様な感じでもない。午前中寝ていた事が効果を発揮したのだろうか。  ダイニングに行くと、ウイリアム元侯爵と出会った。彼は早速特等に移って来たらしい。  丁重な挨拶をすると、あたかも孫に対するような微笑を浮かべて呉れた。 「君達を驚かす為に少し悪戯をさせて貰った」  同じテーブルに着くように促した後、含み笑いをする。 「何ですか」 「いずれ分かるだろう」  そんな会話を交わしていると、オブライエンが通りかかった。ウイリアム侯を恐れるように丁重な挨拶をし、そそくさと離れた席に座る。金輪際、自分達とは関わり合いに成らない積りなのが態度で分かる。  三人で英吉利の事などを話していると、ダイニングの入り口に林親子の姿が見えた。美鈴の母親も一緒だった。 「何故、ここに」  片桐が呟くと、ウイリアム侯爵が会心の笑みを浮かべた。

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