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第76話(ロンドン編)

 英吉利の倫敦に着いてから片桐の顔は目に見えて明るくなった。そのことは素直に喜ばしいことだったが…  下宿先…といっても、元貿易会社社長の豪邸で、その社長が亡くなった後、未亡人が道楽半分に有り余った部屋を身元の確かな外国人に貸しているという場所だった。  当然、防音や暖房はしっかり効いて居る。 「どの部屋を選びますか」  そう聞かれ、思わずダブルベッドの部屋を指指そうとしたが、片桐に止められた。  倫敦の大学で友人になった人間をこの部屋に招待することもあるのだから片桐の意見が正しいと、自分を戒めた。  流石に貿易で財を成しただけあり、この邸宅は日本の自分の屋敷よりも大きいのではないかと思う。ベッドも大振りだった。  今は英吉利時間の午前12時。ちなみに日付が変わって日曜日になっていた。  シングルベットの一つは使われずに、充足した二人は抱き合っていた。行為の後でシャワーを浴びて汗などを流したのだが、二人とも服を着る気になれずに二人して抱き合っている。  情事の後、片桐の目の潤みと目蓋の紅色が壮絶な色気を孕んでいる。その目つきにゾクリと身体の芯が熱くなる。 「晃彦、たまにはオレにさせてくれてもいいだろう」 「ダメだ。これは俺の楽しみなのだから」 「オレだって、出来ると思う。それとも晃彦はオレが出来ないとでも思っているのか」  少し拗ねたような囁きが耳朶を擽る。 「そんな事は…ない。立派に出来ると思って居る」 「本当か。ではオレにさせてくれ」 「駄目だ。これは俺の楽しみなのだから」 「晃彦はずるい…」  拗ねた口調で言いながらも、唇に指を当てる片桐に微笑みかけ、口付けを送ろうとした。  すると、しなやかな裸体が腕から逃れ、手では届かない場所に移動した。 「折角キスしたかったのに…」  恨みがましく呟くと、片桐は悪戯っぽい笑顔を浮かべた。

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