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第78話(ロンドン編)

「分かった。オムレットとキャベツの炒め物だな。その間にミセスが用意してくれたミルクとパンを出しておいてくれ」  そう言ってキャベツを裏返し、包丁で芯を丸く切り取ってから、四分の一程度に切った。その後、目立つ芯の部分を切って冷蔵庫を開け、牛肉を取り出し強火で炒めてキャベツを入れた。片桐の作りかけだったボールの卵は気の毒に思ったが捨てて、ボールの縁で卵を割る。それに牛乳を入れ充分にかき回してから熱したフライパンに入れる。冷蔵庫の中にチーズが有ったので、オムレットの具にすることに決めた。 「ああっ」  調子よく調理に集中していると、片桐の叫びが聞こえた。 「どうした」 「ミルクが膨らんで、零れてしまった…」  心底落ち込んだ声に、余程朝ご飯が作りたかったのだな…と思う。 「大丈夫だ。ちゃんと飲めるから…」 「そうなのか…それなら、いい」  そう言って微笑んだ。  その微笑一つで、キッチンの惨状の掃除も苦にはならない。 「食事が終われば、どこかに行かないか」  片桐は落ち込むと相当長く落ち込むタイプだ。徐々に改善されている様では有るのだが。 「そうだな、倫敦塔に行きたい。あそこには甲冑があると聞いた」  飛び切りの笑顔が向けられる。どうやら気を逸らす事には成功したらしい。  朝食が済むと、――片付けは自分1人でした。片桐を巻き込むともっと酷く成る様な気がしたので――二人して、地下電気に乗った。地下を走る鉄道のことだ。二人とも珍しいものには物怖じしないので、夏目先生のように嫌な感じは受けない。  そして東京とは比べ物にならない程の人がひしめいて居て、流石は倫敦だなと感心してしまった。  倫敦塔で物凄く意外なことに我が国の甲冑を見付けた。江戸時代以前のものらしいが、どこの大名家から流出したのかは残念ながら二人とも分からなかった。多分わざとだろう、家紋が消されていたからだ。逼迫した武家が売ったに違いない。その恥のために家紋を消したのだろう。隣の片桐は一つ間違えば同じように先祖代々の物を売る生活を余儀なくされて居た筈だった。多分そのことを考えているのだろう、表情が暗い。  このエリアに長く立ち止まる人間は居なかった。人が居ないのを確かめて、手をしっかりと繋ぐ。強い力で握り返された。

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