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四、細氷 四

 片方の手が、押さえていた俺の手に伸ばされた。 状況を判断する間もなく、両手を床に強く押し付けられ、もぞもぞと動く足の着物の裾をめくられてしまった。 「や、いやです。見ないで――っ」  頭を振り、足を擦る合わせて抵抗するが、彼は俺の片足を曲げた。 「やだっやだやだっ」 「恥ずかしがる氷雨さん、超可愛い」 「いっ」  息を飲む彼は、そのまま俺の中心へ手を伸ばしてきた。 「ひゃああっ」  いきなり握られ、どうしていいのか分からず口をパクパクさせた。 何故彼は、俺にこんなことを……?どうしていきなり。 「氷雨さん、此処って自分で弄ったことある?」 「あるわけないっ 早く手を離して下さいっ」 「ふうん。だから可愛い色してるのかな」  可愛い色!?  その単語に、羞恥で目頭が熱くなっていく。 「……俺を辱めるつもりですか」 「だって氷雨さんがそんな恰好でいるなんて――俺我慢できるわけねえじゃん」 「貴方の為じゃないです!」  お腹めがけて蹴りあげると、ヒットしたものの足を掴まれそのまま足と足の間に侵入されてしまった。  捲られ、風にスースーと当たれば恥ずかしくてこのまま消えてしまいそうになる。 「氷雨さん、俺は悪い人です。刑事でもない、ただの悪い人。それでいい」  握られた手が上下に動く。  摩擦で熱くて、他人の体温が怖いと感じたのはこれが初めてだった。  段々と滑りが良くなってきたときには、足に力が入らなくなっていた。 聞きたくもない水音に、目をぎゅっと閉じて耐える。 でも、――でも。 身体をぞくぞくと電気が走っていく感覚は自分では止められない。 「氷雨さん、吐きだす息が甘くなってきましたね」 「うるさっ」  顔が近づいてきて、今度は何をされるか分かった。唇に触れた瞬間、思い切り噛みついてやった。  昨日怪我した口の端に上手く歯が当たったのだろう。油断した彼の下から、俺は這いずって逃げ出した。  それでも足に上手く力が入らない。  四つん這いで逃げる俺に、彼は容赦なく腰を引き寄せた。 「やだっ 誰か!」  お腹の下に手を伸ばされ、再び背後から手を掴まれ――彼の様子が見えないまま、握られると上下に擦られた。 「腰が揺れてる」 「だって、なんか、きゅうって切ないっ」 「氷雨さん、それって気持ちが良いってことだよね?」 「違うっ違うっ」  揺ら揺らと揺れた腰に彼の体重が少し乗せられると、見動きはとれない。  もう彼の指の動きに翻弄されるしかない。 「熱い。変、変です、手を、手を止めて下さい」  懇願した俺の声は彼の耳には届かない。それどころか早くなる動きに――大きく熱が弾けるのが分かった。  ポタポタと畳に落ちる白い液体。  滲んだ視界と、熱く零れ落ちる息。 後ろから抱き締めれらる様に置き上がらせられ、俺の瞳から一滴涙が落ちた。 「俺は止められない。氷雨さんの為なら、氷雨さんを此処に閉じ込めるためなら俺は――」 カシャ (カシャ?) 滲んだ瞳で音の方を見上げると、少し上から彼の手が携帯を俺の方へかざしていた。 「何……?」 「記念写真。俺と氷雨さんのツーショット」  画面を見ると、着物を乱した自分とカメラ目線の無表情の彼が映っていた。  呆然とする俺に、彼は寂しげに笑った。 「こんなことする俺が怖い?」  乱れた着物を掴みながら、俺は声も出ずに震えていた。 「俺は自分が怖い。それでも――この状況が許せない。絶対に氷雨さんの自由は俺が取り返すから、それまで閉じ込めさせて」  伸びてきた指先が、俺の涙の後をなぞる。  この男は、やはり俺では到底理解できないような悪党なのかもしれない。  頬に触れようとしてきた手を掴むと、俺は口を大きく開けて歯を立てた。 死んでも、歯が抜けても離してやらないつもりで。

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