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七、甘雨(かんう)  七

「無関心過ぎました。もう遅いけど、俺は自分の事なのに、花壇や天井を修理してくれる彼に何も疑問を持ちませんでした。修理してまでこの家に俺を留める理由を、呑気に好意からだと捉えていました」  音も無く落ちる雨は、俺に気付かず流れる涙の様。  玄関から外の庭まで水溜りが出来ている。  水捌けも悪いし、古いし、土は栄養がないから一杯肥料を買ってきているし。  そんないつ壊れてもおかしくないようなボロ屋に、何故俺を。 「私は喜一くんのことは彼の葛藤があるのでお伝えできませんが……」  橋本さんは穏やかな顔に、無理に笑顔を貼りつけている。 「貴方は母親が亡くなった時の記憶がありますか?」  突然の質問に、すぐには母親の顔が思い浮かばなかった。  まだ物心つく前だから、写真でしかしらない。 「えっと、すごく昔なので、曖昧です」 「樹雨さんやお父様は?」 「……なんか色々とその時期はぼやけるというか、覚えてはいるんですが、霧がかかってる感じです」  辛かった記憶や、お葬式の様子ならば、昨日食べたご飯の内容みたいにはっきりと思い出すんだけど。 「そうなんですよ。私から喜一くんには説明しますが……貴方は他人に興味がないんじゃなくて持てないんです。冷たい人として生きるしか自分を守れないような、不器用な、ね」 「……自分勝手で自分に都合の良い人間ってことですか?」  首を傾げる俺に橋本さんは笑った。 「自分を守りたいから記憶を忘れたいだけの貴方は、そこまで非道じゃないんですけど、喜一くんにとっては辛いかなと」 二人はもういい大人なのだからそれに気付くべきです、と言われてしまった。

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