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十一、桜雨 二

 料理も出来て、強くて、女の子慣れしていて、モテてこの人が俺に懐く理由が未だに納得できない。  だめんず好きなのだろうか。 「そういえば、喜一くんって筆、持ってないの?」  人参を食べようとした大きな口が閉ざされて、思いだそうと目を上にきょろきょろさせる。 「ばあさんの家に探せばあると思う」 「でも何年も使って痛んでますよね? その……俺何本か羊毛の高級筆があるのですが、御礼になるかわかりませんが使います?」  すると、彼はスプーンを置いて、真面目な顔をした。 「高級な筆は、根元まで糊を落としたり、手入れが難しいんですよね?」 「え、ええ。でも筆下ろしなら俺ができますから教えますよ」  筆下ろしと言った瞬間に、喜一くんの瞳の奥が光った気がしたが気のせいだと思う。  カレーを食べ、一緒に皿を洗い、俺は漆の塗られた書道道具を直す箪笥の一番上の棚のドアをスライドさせた。  華樹院さんが下さった破格の羊毛筆は、恐れ多くて展示会用の作品でしか使わない。多分、業者を通して買ったら40万は軽く超えてしまう。  喜一くんは、その筆の一番小さな二号の小筆を薦めようと思う。止め、跳ねの最後が美しく仕上がると思う。  それでも小筆だけで15万。俺は直接仕入れたので半額ではあるけど、それでも驚きの値段だ。  新聞紙を引き、洗面器を置いて、小筆の糊を下ろす。 「あのね、小筆は糊を全部下ろしたら、ぺっちゃんこになって上手く書けないんだけど、その代わり強弱が大きく出るから表現の幅は広がるよ」 「えっと、違いが分からねえから、氷雨さんにお任せしていい?」  そう言われると、あの喜一君に頼られた気がして良い気分になってしまう。 「いいですよ」  糊を落としながら、洗い方も伝えた。水道みたいに流水では筆の先が割れてしまうから、やわやわと水の中で解して墨を落とすだけにすること。  墨汁の中には、糊の成分が入っているので洗い逃しがあると、筆が固まって痛むから、墨汁ではなく自分で墨を下ろすこと。  いろいろと話していたら、いつの間にか喜一くんの顔が俺の肩に乗っていた。  後ろからふんふんと頷かれると、息が耳に当たってこしょばゆい。 「あ、っと。その、この筆、大事に使ってね」 「もちろんです。ありがとうございます」  大事そうに持った喜一君だけれどなかなか俺の肩の上から顔を退けない。 「喜一くん?」 「御礼に俺も筆下ろししてあげましょうか?」  ――こっちを。  後ろから、着物の上からだったけれど前を握られて固まった。 「わ、……ぁの」 「少しずつ慣らしていかないと、ね?」  優しく、諭すように言われて頬が熱くなる。 「だ、だめです」  やんわりと彼を押しのけようとしたのだが、乱れた着物から見えた太腿の上に、先ほど渡した筆が落ちた。 「ひゃっ」  冷たく濡れた筆が太腿の上を転がった時、変な声が出てしまった。 「氷雨さん、びーんかん」  ひょいっと着物の合わせを捲られ、喜一君が筆をもつと洗面器につけ、水をたっぷり含ませた。 「な、何?」 「筆下ろし」  するりと筆が俺の太腿を撫でた瞬間、背中が大きくしなった。 「そ、それ、や、です。やめて」 嫌だと首を振るのに、筆はつつーっと太腿の付け根まで伸びてくる。 洗面台に両手をついてたっているのがやっとだ。 太ももから足まで水が流れていくのが伝わってきて、背中がぞくぞくする。 「ちょっと待ってね」  優しい声で喜一君が言うので、ふと後ろにいる喜一くんを見上げたら、不意を突かれ大きく足を開かされたと思うと喜一くんの足で固定された。 「は、離して」 「大丈夫ですって。人参より気持ちが良いです」  人参と言われ恥ずかしくて、力が緩んだ隙に反対側の手が下着の中に伸びた。  ずるりと下げられた下着から縮こまって顔を出している俺のモノに筆は伸びた。 「ぁあっ!!」  先端をぐりぐり刺激された瞬間、背中が甘く痺れた。  ムズムズする。刺激が、――刺激が気持ちが良い。  すぐに先端からとろとろ出てきて、恥ずかしくて両手で顔を覆い隠した。 「酷いですっ こんなっ」 「でも、どんどん溢れて硬くなってるよ」  意地悪く笑いながら喜一君が言う。

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