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花、散る、檻の中。 二

 彼の字、彼の心、俺への気持ち。  全てこの紙に詰まっているように感じて目頭が熱くなった。  俺は寝起きの格好そのままで、急いで返事をしたためたのであった。 『桐生喜一様  貴方と出会ったころ、毎日のように雨が降っていました。俺は貴方の言葉や言動に振り回され、自分が雨の格子の中にいることを自覚していなかった。  貴方は俺に、色んな気持ちを下さりました。最初は恐怖だけだったかもしれません。けれど、今は貴方の不器用な優しさが愛おしくて。  いつしか、俺は空を見上げたら、月が綺麗で苦しくて辛くなりました。  甘酸っぱい気持ちが俺の中に生まれては溢れています。  なので、俺からもお願いがあります。  この檻の中には兄との消してしまいたい思い出があります。今はもう後悔しかしていません。  どうか、その記憶を貴方との記憶で塗り替えてくれませんでしょうか。  花を、散らしてください。』  その手紙を書いてから、部屋を片付けた。返事は要らない。ただ、この檻の中で喜一くんに全てを捧げようと決心した。  朝一で彼の家のポストに入れたけれど、彼が俺の家に来ないのをみると、きっと呼んだに違いない。  ドキドキして緊張しているはずなのに、俺の心は覚悟を決めたのか妙にどっしりと落ち着いていた。  自分で敷いた布団に、耳まで真っ赤になりながら正座して待つ。  彼を待つ時間が愛しく、そして一生で一番緊張したかもしれない。  走ってくるだろうか。驚いて呆然としているだろうか。  それとも一方的過ぎて引いてないだろうか。  俺の心の中で色んな葛藤が繰り広げていたが、縁側の戸をスライドさせる音に身体が緊張した。  ――彼が来る。  一瞬、月の淡い光が漏れたが、パタンと締められるとまた部屋は真っ暗になった。 「……なんで電気を消してるんですか」  喜一くんの声に、ホッとする。そして緊張して喉がからからに乾いていく。 「は、恥ずかしいから、です」  その言葉と同時に、彼の腕の中に囚われた。 「――っ。そんなの反則だ。色々聞いてないし! 樹雨さんと何があったんだよ! ってか、字やばい。字に色気があって、繊細で美しくて消えてしまいそうで抱きしめなきゃ不安になるような、そんな字で、ずりい」 「ぷぷ。どんな字ですか」 馬鹿みたいに緊張していた俺は少しだけ笑った後、抱きしめられた腕に頬を擦り寄せた。 「全て、――散らしてください」  貴方の手で、全て暴いて下さい。  怖くない。  怖くないけれど、爆発しそうな恋焦がれる気持ちは抱きしめるだけでは止まらなかくて、二人で暗闇の中目を慣らしてから唇を重ねた。  皆、上手に嘘を付いて生きている。欲望を隠したり、悪意を閉じ込めたり、上手に笑って騙しいく。  喜一くんもそんな人かと思っていた。  何も言わないで、何を考えているのか。  怪しい人だった。  けれど、彼の行動の中心にはいつも俺の事を考えて動いていた事を知る。 「んっ」  重ねた唇がやがてどんどん深くなると、俺の着物の帯がしゅるると床に落ちていく。  肩まで着物を脱がされて、そのままストンと足元に着物が落ちる。  すると、下着を身に着けていない俺の姿に喜一くんが息を飲むのが分かった。  自分なりの精一杯の意思表示のつもりだったし、自分から手紙で頼んだのだから誘うために何も着けなかった。  理性と戦っているらしい喜一くんがネクタイを乱暴に放り投げると、獰猛な瞳で俺を離さないまま、優しく布団へと沈められた。  ピリピリと唇が痺れるほど、何度も何度も吸い上げられ舌を絡め、どちらとも分からない唾液が口の端を流れ落ちる。感覚が無くて、動くものにまとわりついて輪郭を残しているような、もう自分の体なのに、喜一君が触れてくれないと溶けて消えてしまうような感覚だった。  押しつけられる芯の熱さと大きさに、まだ少し恐怖はあったけれど、その何倍も喜一くんの喜ぶ顔が見たくて、おずおずと足を開いた。  暗闇で、お互いの荒い息が響く中で、彼の喉を鳴らす音は大きく聞こえた。  彼がズボンから何か取り出して、破く音が聞こえた。  すると、とろりと反応し高ぶっていた芯に液体が落ちた。次々と落ちて、受け入れる部分まで垂れた頃には甘い匂いが鼻を掠めた。 「冷っ な、なに?」 「ローズの香りのローション、おためしパック」 「おためしパック……」 この人は、なんで雰囲気をぶち壊すんだろう。

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