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第2話

「それでは自己紹介してください。」 初めて見るような特殊なカメラに向き合って、深呼吸をした。 「○○県出身、21歳、五十嵐栞太です。」 「はい、特技はなんですか、、、」 淡々と進んだ質問には噛みまくって答えてしまった。 「やらかしたな~、」 せっかくセットしてきた髪を思わずくしゃくしゃにしてしまった。あのスタッフの顔を見る限り、合格なんて程遠い。 落ちることを覚悟で、もう来ないだろうしテレビ局とか見学しとくか、なんて思っていた矢先だった。 すっ、と香水が香った。 前には俺と同じか少し高いくらいの身長の、たぶんオーディションを受けに来たのであろう俺と同じく学生らしき奴とすれ違った。 正直、アイドルかと思った。 でも番号つけてたしな、と数秒考えているうちに奥の方へ歩いていく。 「あ、ちょっと!」 「、、、俺ですか」 振り返ったその声は低すぎず高すぎなくて、心地良い声だった。 「き、君もオーディション受けに来たんだろ?」 多少声が上ずったが、歌の審査のせいだ。 「、、、はい」 「たぶんそっちじゃなくて右のほうだと思う」 「あ、、そうっすね、ありがとうございます」 「お、、、がんばれよ」 「、、はい、お互いまた会えるといいですね」 少しだけ上がった口角が印象的だった。にしても、もう既にデビューしたみたいな雰囲気だった。 「また会えるといいですね、、か」 到底無理そうだ。そう思いながら帰りの電車に乗った。

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