6 / 31

02

 それは今朝の出来事だ。珍しく遅刻ぎりぎりに出社した俺は、急いでエレベーターまで走り寄った。 「……あれ? 開かない??」  気ばかり()いていた俺は6Fのボタンを連打。やっとのことでドアが開き、乗り込もうとした瞬間――。 「……御手洗 !?」  突然、目に飛び込んできた濃厚なキスシーン。あろうことか、逢坂課長と同僚の御手洗が密室の中で絡み合っていた。 「ちょっと待ってね?」  そして、何故か逢坂課長は《閉》ボタンを押してしまう。  それから数分後――、 「お待たせ。早く乗らなきゃ遅刻するよ?」  逢坂課長は無邪気に笑い、何もなかったかのような笑顔を俺に向けたのだった。  ― 昼休み ― 「おい、御手洗! 今朝のアレはなんなんだよ!」 「ん、ああ、見てたよね。忘れて?」 「あぁ ?! 忘れろだあ ?!」 「なんかさー。逢坂課長と二人っ切りでエレベーターに乗ってたらさ。ヘンな気持ちになっちゃって。そしたら課長が《閉》ボタンを押しちゃって笑ったよ」 「――去れ」 「……ん? なんか言ったか??」 「お前は便所へ去れ!」 「俺は《みたらい》だっつーの !! ……ったく」  ……なるほどね。逢坂課長から誘ったわけだ。  エレベーターの中で受付の日下部さんと一緒になり、 「気にしない方がいいよ?」  と、慰められた可哀相な俺。課長のソレは一種のビョーキのようなもので、どうやら盛りが付いたら誰かれ構わず、それこそ所構わずやっちゃうらしい。  しかも日下部さんは、 「私も雰囲気に負けて、最後までやっちゃったことがあるしねー」  と、ご丁寧にも付け加えたのだった。

ともだちにシェアしよう!