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そして、就業時間を迎えた。
いつも遅くまで残業をしている逢坂課長。俺は珍しく自分から残業を買って出て、課長の仕事が終わるのを待った。
(チッチッチッ……)
時計の音がやけに大きく聞こえる。課長はずり落ちた眼鏡をしきりに気にしながら、それでも書類の山と格闘していた。
やっぱり……、カッコイイ。
課長は仕事になると表情が変わる。ベッドの中ではまるで子供みたいな課長がちゃんと大人の男に見える。
まあ、俺より20歳も年上だし、大人なのは当たり前なんだけど――、さ。
「……あれ、長谷部君。まだ残ってたの?」
不覚にも俺は課長に見惚れていたらしい。
「うおわっっ !?」
気付けば眼鏡を外した課長の顔がどアップに迫り、俺は奇声を上げていた。
「……今朝のアレはなんだったんですか」
「あっ、見られちゃったよね。忘れて?」
「――っっ、忘れろって ? ?!」
「……だって、御手洗君の指を見てたらさー。なんだか舐めたくなっちゃったんだもん」
「はあ !? 指ぃ ?!」
「うんっ! 長くて綺麗でさ。色も白くて! で、ちょっとしゃぶってみたら御手洗君、感じちゃったみたいだね」
「……みたいだねって――……」
……頭痛がしてきた。
無邪気だ。無邪気すぎです! 逢坂課長 !!
しかも可愛すぎ――。
俺は深い溜息を吐いた。
「……課長の恋人は?」
「――? ……長谷部君だよね?」
「……分かってんじゃん。じゃあ、なんで俺以外とするんですか !!」
……あ、ちょっと強く言い過ぎた?
俺の怒号に逢坂課長は肩を落とし、瞳に涙を浮かべていた。
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