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第470話 凍蝶(19)
「そっか。ならいいや。おまえがそんな風に断言できるなら、大丈夫なんだろ。まあな、お揃いのピアスしてここに来たぐらいだから、すげえ覚悟して来たんだろうし、それだけ本気なんだろうとは思ったんだけどさ。一応、確認したかった。」
「なんでおまえが確認するんだよ。」涼矢が苦笑する。
「だから、言ったろ。家族的な立場としてって。自分に娘がいたとしてさ、自分の子だから大事だし可愛いけど、客観的に見たらモテ要素はない、そういう娘だとして。それが突然すげえハイスペックな彼氏連れてきたら、騙されてるんじゃないのかって心配になるだろ。」
「ひでえ。」
「ひどくねえだろ。だってあの都倉が、わざわざおまえを選ぶとか、するっと納得できないじゃん。」
「……まあ、それはそう思うけど。」
「でも、好かれてる自信があるんだろ?」
涼矢は急に気恥ずかしくなり、柳瀬から顔を背けて頷いた。その頬に赤みがさす。
「涼矢と恋愛話するとか、おまえがそれで赤くなるとか、そういう日が来るとは思わなかったなあ。」柳瀬が笑った。涼矢はいたたまれない気持ちで立ち上がり、1人で勝手に歩きはじめた。「おい、なんだよ急に。」と柳瀬が追いかける。
「もう終わったんだろ、おまえの話。」
「終わった。けど、こっからどうすんの。もうみんなあちこちで遊んでるよ。都倉呼ぶか?」
「おまえと別れたら呼ぶ。おまえあっち行け。俺はこっち行く。」
「なんでだよ、今ここで電話しろよ。」
「やだよ。」
「いいから。おまえがどういう顔してあいつとしゃべるんだか、見てみたいわ。」
「だから嫌だっつってんだよ。」
「じゃあ、いいよ。」柳瀬は自分が電話を掛けはじめた。すぐにつながった様子で、「今どこ?」などと話している。しばらくして、そのスマホを涼矢につきつけた。「おまえに替われって。」
「え。」露骨に嫌な顔をして電話に出た。「もしもし?」
――なんで柳瀬に電話なんかさせてんの。充電切れた?
「あいつが勝手に掛けた。俺は別に用はない。切るぞ。」
――ちょっと待てって。今どこにいるの。
「こどもの遊具があるエリア。」
――ああ、あの、例の花時計の近く?
「……まあ、そうだな。」
――そこで待っててよ。行くから。
「やだよ。柳瀬のバカがいるし。」
なんだと、という声が横から聞こえた。
――そのバカはどうにか追い払っておけよ。
「来なくていい。」柳瀬のことも気にはなるが、子連れで賑わうエリアに和樹と2人でいるのも妙な気がした。前に来た時はもう夕方でこどもの姿はなかった。トイレの陰でエミリにキスをした。それから和樹ともう一度来た時にはもっと薄暗くなっていた。その薄暗がりの中で「ハート型の石」を見つけた。
――いいから待っとけ。
和樹のほうが電話を切った。涼矢はスマホを柳瀬に返した。
「じゃ、おまえは宮野とでも遊んでろよ。」
「涼矢は?」
「……なんか、来るって言うから。」
「彼氏?」
「いいから行けよ。」
「いいじゃん、おまえらはどうせ2人で会ってるんだろ。今日は普段会えない俺との時間を優先しろよ。」
「俺と和樹だって滅多に会えない。」
「でも、2人でいるよりみんなと会おうってんで、俺に連絡してきたわけだろ?」
「それは、和樹が。」
その時、和樹の姿が視界に入った。それと同時に、和樹もまた気付いたようだ。
「おう、柳瀬、まだいたの。」和樹は半笑いで近づいてきた。
「まだいたの、じゃないよ。おまえがみんな集めろって言うから、セッティングしてやったのに。」
「そうだよね。悪い悪い。」
思ったより和樹が楽しそうに柳瀬と話していることに、涼矢はホッとした。何故そんなことにホッとするのだろう。「柳瀬は追い払っておけ」という、遂行できなかった和樹の言い付けは冗談だったと判明したせいか。
「柳瀬は、ここ、彼女と来たことある?」和樹が言った。
「ないんだよね。だから今日のことはヒナには内緒なんだよ。」
「それで今日は写真、ほとんど撮ってないんだ?」
「そうそう。いつも通り予備校行ってることになってるから。親にも。」
「悪い子だねえ。」
「浪人生は肩身が狭いじゃん? 遊ぶ時間なんかほとんどないし、それは彼女に悪いなぁと思ってるけどさ、たまのオフは全部私と過ごすのが当然って顔されるのも、ちょっとね。俺だってたまにはヒナ以外と遊びたいなぁ、なんて思うわけよ。だから今日久しぶりにみんなに会えて、俺も楽しかった。」
「宮野とかとも会ってないの?」
「会ってないよ。涼矢とだって。なあ?」柳瀬は涼矢に目をやる。
「たまのオフに柳瀬となんか会いたくない。」
「ひっで。」柳瀬は言葉の上ではそう言いながらも笑っている。「都倉は、淋しくないの? 1人でさ、東京で。」
「淋しいよ、そりゃあ。」
「近くにいくらでも相手、いるだろ?」
「それがねえ、そうでもない。」
「ホントかぁ? 涼矢の前だからって嘘ついてんじゃないぞ。」
「可愛い子はたくさんいるし、声かけてくれる子もいないわけじゃないけど、なんか怖いんだよ。」
「何が。」
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