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第486話 Spectrum(6)

「俺は和樹のそういうところ、好きだよ。」 「足して2で割りゃちょうどいいか。」 「足しっぱなしでいいだろ。だって、お互いの長所なんだから。いいところは、取り入れたらもっといい。」涼矢は和樹の顔を見る。「……って、プラス思考の和樹さんなら、言うんじゃないの?」 「はは、確かに俺、いかにもそういうこと言いそう。」和樹は縁石にひょいと乗っかり、その上を歩いた。「早速取り入れてるんだ、プラス思考?」 「和樹だったらどうするのかなってのは、よく考えるよ。なかなか実行できないけどね。」  時折ぐらついては両手をやじろべえのようにして歩く和樹。そんな和樹が万一縁石から落ちるようなことがあればいつでも受け止められるようにと、脇について歩く涼矢だった。 「おまえのつむじが見える。新鮮。」と和樹が言う。 「つつくなよ?」 「やるかよ。俺のほうがデカかったら、こんな視界なんだな。」 「俺からは和樹のつむじは見えないよ。そこまでの身長差じゃない。」 「ほぼ同じだもんな。」 「いや、俺のほうが高いけど。」 「だから、ほぼって言った。」 「5cmはほぼの範疇?」 「細かいなぁ、もう。おまえね、また姿勢悪くなって縮んで、そこまでの差じゃなくなってるかもしれねえぞ。」 「それはありうる。」  背後から車が近づいてくる音がして、とっさに涼矢は和樹の腕をつかむ。和樹は縁石からぴょんと飛び降りた。いつの間にか、周りには通行人が増えてきた。おそらく目的は同じで、М神社を目指しているのだろう。それを意識してというわけでもないが、涼矢は和樹から手を離した。 「腕組んで行くつもりかと思った。」と和樹は笑った。 「手をつなぐどころか?」 「そう、バージンロードを歩くみたいに。」 「神社に行くのに、バージンロードって。」 「バージンロードを歩いてる新婦に正真正銘のバージンなんかいるのかね。」 「そりゃいるでしょ。」 「今時、結婚するまでいたしませんって? いるかなぁ。」 「自分を基準に考えるなよ。」 「そうだな、俺、バージンじゃないもんな。あ、おまえもか。」 「あのな、もっと神聖な気持ちで行くもんだろ、初詣って。」 「除夜の鐘、鳴り終わってないから、煩悩が残ってんの。」 「まるで、鳴り終わったら煩悩が消えるみたいな言い草だな。」 「まるで、そんなわけないと言いたそうな言い草だな。」 「そんなわけない。」 「そんなわけないよね。」  2人でくすくすと笑う。  神社の手前まで来ると既に長蛇の列だった。参拝客は境内どころか、そこに向かう階段を埋め、道路まで並んでいる。2人は話し合って、裏手のもっと小さい神社に行った。そちらも混んではいたが、М神社ほどではない。 「野球部がランニングで来るのはこっちなんだろ?」 「うん、そう聞いた。М神社の階段より段数は少ないけど、急だからキツイって。」 「本当、だな。」しゃべりながら登れば、息が上がる。階段は古い石段で、摩耗して角が丸みを帯び、余計登りにくい。階段の半ばほどに行列の最後尾があったから、そこからは一段一段、列の動きに合わせて、ゆっくりと登る。 「ここ、和樹は初めて?」 「うん。中3で行ったのは、引っ越す前の家に近い神社だったから。」 「あ、そうか。ここが地元じゃないんだもんな。」 「そ。」  階段を登り切り、ようやく境内に入る。ちょうど年が変わる頃だった。近くからカウントダウンをしている声が聞こえて、それを知る。 「おめでと。」と和樹が言う。 「おめでとう。今年もよろしくお願いします。」涼矢はぺこりと頭を下げた。 「こっちこそ。」和樹も慌てて頭を下げた。 「ああ、なんか、うるさいな。」涼矢はポケットからスマホを出した。「やっぱり。おめでとうって、あっちこっちからメッセージが。」マナーモードのバイブ音も切る。 「俺もだ。」和樹も自分のスマホを見た。「ミヤちゃんからも来てる。」和樹は涼矢に画面を見せ、ついでにちらりと涼矢の画面を見た。「あ。」 「ん?」 「哲じゃない? 今の写真。」 「え。ちゃんと見てない。」涼矢はもう一度画面を見た。「……ああ、そうだな。あいつ、こんな日までバイトか。」哲がクラッカーを鳴らす短い動画を2人で覗き込んだ。 「佐江子さんたちが行ってるパーティー?」 「そうだね。」 「涼矢は、哲から誘われなかったの?」 「誘われてない。」 「そうか。」 「クリスマスのバイトだって、哲じゃなくて店長から直々に頼まれたんだ。」 「それって……。」 「まぁ、あいつなりに、一応は、責任感じて気を使ってるっていうか。そういうことなんだろ。」 「……俺が着信拒否したこととか、おまえが車飛ばして東京まで来たこととか、ぜんぶ知ってる?」 「うん。」 「相談したの?」 「あいつが原因だろ、するわけない。……けど、バレバレだったんだろうと思う。すげえ、動揺してたから、俺。それで、いろいろ聞かれて。」涼矢はいつになくムキになる。「でも、あいつの言いなりになったわけじゃない。レポートの提出とか、ちょっとは世話になったけど、俺は自分で。」 「ちょっと待て。バレバレの動揺って、おまえが?」 「俺が。」 「涼矢が動揺ってどういう。」 「……もういいよ。もうすぐ順番だから、心穏やかに拝ませて。」

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