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第489話 Spectrum(9)
次第に高まってくる中で、和樹は無意識に自分の手の甲を口に押し当てて、声を抑えた。それでも体はビクンビクンと反応して、次第に膝に力が入らなくなり、背後の洗面台に寄り掛かった。それに気づいたからか、涼矢は和樹の足を片方ずつ持ち上げて、膝下で止まっていたジーンズとパンツを脱がせた。その間も口の動きは止めない。
「なぁ……。」和樹はそんな声を出したが、話しかけているのか、ただの喘ぎなのか分からず、涼矢は視線だけ上げて和樹の顔を見上げた。「これ、手洗い、関係ない……。」
それを聞いて、涼矢は咥えたまま吹き出した。反動で咽喉奥までペニスで突かれて、えずいた。えずきながらも、笑う。「な……いまっ……それ……言う……?」涼矢は立ち上がり、洗面台の棚から、保湿用らしいボディクリームを取りだし、指に出す。「それじゃあ、違うこと、しよっか。」そう言いながら和樹の肩を抱いて、体の向きを反転させた。「ちょっと、屈んで?」口調こそ優しいが、指先はそう遠慮せずに、和樹の穴を抉った。
「いぁっ!」和樹が声を漏らす。言われなくても膝が崩れ気味で、洗面台のふちに体重をかけるように前屈姿勢になった。突き出された尻の真ん中を、涼矢は容赦なく攻めていった。「あっ……やっ……んっ!」
「もう、柔らかい。」涼矢はわざわざ和樹の耳元まで口を寄せて、囁いた。「時間かけられないから心配だったけど、大丈夫そうだね?」
「あんっ……そこ、い……。」和樹はぎゅっと目をつぶり、"そこ"に神経を集中しているようだ。
涼矢はそんな和樹の肩をつかむと肩甲骨のあたりを親指で押し出すようにした。そうすると背中を丸めていた和樹の体が反り返る。「目、開けて?」
目を開けなくても、そこに何が見えるのかは分かっていた。だからこそ、前屈みに背中を丸め、目をつぶっていた。
「ちゃんと見て?」涼矢は和樹の顎をグイッと上げさせる。和樹は薄目を開ける。
目の前は洗面所の大きな鏡だ。和樹の角度だと、自分のみぞおちから顔まで見える。そして、自分の肩越しには、薄笑いを浮かべた涼矢の顏が。
「やらしい顔してる。」涼矢はそう言って耳たぶを舐めた。
「やだ。」和樹は反射的にうつむいた。
「だめ。」また無理やり和樹の顔を上げさせる涼矢。「可愛いよ?」そう言って、アナルの指を増やす。
「いや、やだぁっ……。」
「嫌じゃないでしょ。こんなすぐ柔らかくして。トロトロのくせに。」その2本の指をグイッと奥へ押し込む。
「ひっ。」和樹の体が反る。
「ね、見て。俺の好きな和樹。超可愛い。」
「やめ、むり……あんっ、あっ……ああっ。」和樹はうつむく度に涼矢に起こされるので、やがて諦めて、鏡に映る自分を見ていた。だらしなく口を半開きにして、喘ぐ自分を。
「気持ちいい?」
「んっ。」
「言って。」
「きもひ、いいっ……」しまりのない声でそんなことを言ってる自分の顔も見た。「あっ、奥、好き、もっと」そんなはしたない言葉を言う自分も。「もっと、強くしてっ」そんなことをねだるようになった自分の姿を見て、更に欲情した。「も、いいから、涼矢の、欲し……。」ついには鏡の涼矢に向かって、言った。
涼矢はいつの間にか3本に増やしていた指を抜き取ると、自分のズボンとパンツを下ろした。
「ゴム、用意しとくの忘れたけど、いい?」
「いい。早く挿れて。」和樹は身をくねらせて振り返り、鏡に映る涼矢ではなく、背後の涼矢に言った。
「エロ過ぎんだろ。」涼矢はそう言いながら、和樹のアナルに自身のいきりたつペニスを挿入した。
「あっ……あっ…ん、いい、気持ちいい。」
和樹の腰を抱き、何度も抜き差しを繰り返した。実際の和樹の肌と、鏡に映るしどけない和樹の顔を交互に見ながら。鏡を見れば、和樹と必ず目が合った。最初に見ろと言った時には恥ずかしがっていたはずの和樹だが、今ではもう、その倒錯的な羞恥によって快感が高まる自覚があるようだ。
拘束にしろ、目隠しにしろ、アナルプラグにしろ、やはり和樹は"そういったプレイ"が好きなのだ。本人に言えば否定するだろうけれど。それと、かすかな痛みも。本格的なマゾヒストではないのだろうが、手首を拘束する時には、少しきつめにした時のほうが、反応がいい。涼矢は猛々しい獣のような衝動的な快感の一方で、和樹の性質について冷静に分析していた。
「涼、涼矢ぁ。」甘ったれた声で呼ばれる。和樹が顏だけ後ろに向けて、キスをせがんできた。つながったまま、唇を合わせる。お互い少し苦しい体勢だが、この程度の苦しさが、和樹をより強く刺激するはずだと涼矢は思い、自分もまた、和樹が苦し気に顔をゆがめながらも淫らになっていく様 に煽られる。
「んんっ。」キスをしながらも喘ぐ和樹。
「ヤバイ、和樹、可愛い。」涼矢はハアハアと荒くする息の合間に、そんな言葉を言う。それが聞こえたせいかどうかは分からないが、和樹のそこがキュッと締まる。和樹はまた鏡のほうを向いて、体をエビ反りにして、激しく喘ぐ。「イキそう。いい?」背後から和樹に囁く。「中に出していい?」
「うん。」和樹はぶるっと体を震わせた。「涼矢のセーエキ、全部、出して。」
その言葉にとどめを刺されるようにして、涼矢は射精した。
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