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第498話 Spectrum(18)

「ああ……。」涼矢も何か思い出したように視線を上に向けて、頷く。 「結局、何見たとか食べたとかじゃなくてさ。そういうことが。」 「自己肯定感、かな。」 「ん?」 「そういうことの積み重ねで、自分が大切に扱われてるって覚えて、自分のこと好きになれるんだろうなって思った。今。そんで、和樹はきっと、そういう記憶がたくさんある。」だから、家族のことも、周りの人のことも、大事なのだ、和樹は。涼矢はそう思った。 「おまえだって大切に扱われてるだろ。そんな、小さい頃からいろんなところ連れてってもらってさぁ。で、具体的なことは覚えてなくても、そういう感覚ってのは、きっと覚えてると思うんだ。」 「うん。そうだな。」それでも自己肯定感が低い、と父親に指摘された。自覚もある。大切に扱われてきた。愛されている。そう思っていても、自分のことを素直には愛せない自分がいる。理由は分かっていた。単純なことだ。同性愛者だからだ。単純だが、どうしようもできない理由だ。どうしようもできない、と思っていた。――今までは。  涼矢は和樹を抱き寄せる。「覚えてるよ。大事にされてた。優しくされてた。けど、自分が人と違うってことが分かってからは、それが逆に重荷でもあった。そんな風に優しくされたって期待に応えられない。そういう自分が嫌で、だから、忘れようとしてた気もする。」和樹を抱く手に力を込める。「でも、それは間違ってたなって最近思うよ。」 「充分期待に応えてるだろ。奨学金までもらっちゃってさ。俺が親なら自慢する。」 「……親父には自慢の息子だって言われてる。」 「さすが溺愛パパ。」和樹は笑う。 「でもキツかったんだよ。そういう言葉も。言われれば言われるほど、そんなにおだてても、あんたたちが期待するような、普通に結婚して孫の顔見せて、っていう、そういう未来は返してやれないのにって、ずっと思ってた。」 「東京でも言ってたな、そんなこと。マスターと話した時。でもそうじゃないって結論じゃなかったか?」 「ああ。あの時はそうだった。でも、そう思ってみたり、やっぱり違うって思ったり、行ったり来たりするんだよ。何が正しいのか、自分がどうしたいのか、分かんなくなる。……だから。」  そこで押し黙り、和樹の顔をじっと見る涼矢。和樹は続きの言葉を待つが、なかなか出てくる気配はない。「だから?」と続きを促す。 「和樹がいてくれて良かった。」涼矢は和樹のこめかみをそっと撫でる。「和樹といたいっていう、それだけは、迷わない。迷ったらいつも、和樹のこと考えてる。和樹だったらどうするだろう、和樹が笑ってくれるのはどっちのやり方だろうって。だから、いてくれないと、困る。」 「嘘ばっかり。」和樹は笑って、すぐ目の前の涼矢の頬にキスをする。「俺なんかいなくたって何でもできるだろ。」 「ダメ。死んじゃう。」 「マジか。」 「うん。」 「嬉しいけど、重いわ。」和樹は笑って、涼矢の鼻をつまむ。 「俺は重いんだよ。知ってるだろ。」 「知ってた。」 「おまえも、重くなっていいよ? 俺に依存しなよ。俺がいないと死んじゃうってぐらい。」 「そんなこと言うなら、こうだ。」和樹は涼矢に覆いかぶさり、体重を乗せた。「重いだろ。」 「うん。マジで重い。」そう言いながらも、涼矢は笑っている。 「俺はおまえがいなくなっても死なないと思うけどさ。」和樹は涼矢にまたがる姿勢になり、自分の服を脱ぎ始めた。「でも、毎日泣き暮らすよ。世の中を恨んで、人間不信になって、すごく不幸になる。いいの、そんなんで?」 「ダメ。」 「だったら、いなくなるなよ?」 「ならないよ。」 「絶対な。」和樹は立ち上がり、ズボンにも手を掛けたところで、ふと動きを止める。「おまえも脱げよ。」  涼矢は寝そべったまま、だらりと両手を突き出す。「脱がせて。」 「はあ? 何言ってんの。」 「甘えてんの。」 「ったく、もう。」文句を言いながら、和樹は涼矢の服を脱がせた。パンツだけ残して他を脱がせると、「シャワー」と言ってベッドから降りようとする。その手を、涼矢がつかんだ。 「脱がせてからシャワーってひどくない?」 「だって、それはおまえが。」  涼矢は手を思い切り引っ張る。和樹はよろけるようにしてベッドに乗る。 「シャワーは省略。時間ないし。」 「やっぱりアタシの体目当てなのね。」和樹はわざと体をくねらして、そんなことを言う。 「体も、目当て。」涼矢はニヤニヤしながら言った。「体も、心も、全部目当て。」 「何言ってんだか。」和樹は涼矢に残された最後のパンツを脱がせると、自分も慌ただしくズボンとパンツを脱ぎ捨て、改めて涼矢に馬乗りになる。 「お、今日はおまえの好きな。」 「そ、昨日おまえに合わせた立ちバックだったから。」 「良かっただろ?」 「うん、良かった。」和樹はあっさりとそう言うと、体を傾け、涼矢にキスをし、乳首を愛撫した。 「んっ。」と涼矢が吐息を漏らす。和樹は涼矢の小さな突起をつまみ、こねるようにし、たまにピンと指先で弾く。その度に涼矢は短く喘ぐ。

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