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第500話 Spectrum(20)

「キスして。」と和樹が言った。涼矢はキスをする。優しくて、長いキスだ。しばらくして唇を離すと、和樹がはにかむように笑った。さっきまでの激しい痴態が嘘のような微笑みだ。それを眺めながら、涼矢はコンドームが外れないように、慎重にペニスを抜いた。 「そっちは2回分。」と言って和樹が笑った。  涼矢は黙ったまま、使用済みのコンドームを捨てる。そして和樹の隣に寝転ぶと、和樹の臍にたまった白濁液を指ですくってみせた。「そういうきみのは、こんなところに。」 「やーらしい。」 「和樹のだよ。」涼矢はその指先を舐めた。 「きったね。変態。」 「だから、おまえのだって。」涼矢はその指を和樹の口元に突き出した。 「やーめーろっ。」和樹は全力でそれをよけた。よけたついでにベッドから降りて、そのままシャワールームへと消えた。  ひとり残された涼矢は、シーツや布団の乱れを確認する。ベッドを使ったことは分かるだろうが、「そういうことをした」とは分からないと思う。ただローションはそれなりに多く使ったから、ところどころ湿っている。とはいえ通常のシーツ交換で対応できるレベルだろうと判断して、なんとなくホッとする。顔を合わせる可能性などほとんどないホテルの清掃スタッフにすら、「ひとつの部屋で男2人、何をしてたのか」などと想像されるのは抵抗がある。気にしすぎなのかもしれないが、気になる性分なのだから仕方ない。  和樹がシャワーから戻ってきた。交替で涼矢も入る。さっと身体を流すだけだからすぐに済んだが、部屋に戻ると和樹は既に服を着ていた。 「服着ちゃったんだ。」と涼矢が呟く。 「まだ何かやるつもりだったのかよ。」 「だって、もう少し時間あるだろ。」 「だめだめ。後は明日。明日はもう少し、長くいられるし。」 「泊まり……は無理だよね。」 「それは無理だな。」 「言ってみただけ。」 「うん。……あっと言う間だな。涼矢といると時間経つの速い。特に、ヤッてると。」  涼矢は笑う。「じゃあ、明日はセックスしないで過ごそうか。一緒にいる時間が少しでも長く感じられるように。」そう言いながら、服を着る。 「おまえがそれでいいならいいよ。」 「俺もおまえがそれでいいならいいよ。」 「ずりぃぞ。」和樹は笑う。「正直に言わないと偽証罪ですよ。」  涼矢はチラリと和樹を見た。「では正直に言います。時間の許す限り素っ裸で抱き合っていたいです。」 「正直でよろしい。」 「そっちはどうなんだよ?」涼矢は着替え終わり、ベッドの端に腰掛ける和樹の隣に座った。硬いベッドだから、そう弾まない。 「黙秘権。」 「なんだそれ。」涼矢は笑う。それから和樹の肩を抱き寄せて、キスをした。「言ってよ。」 「言ったらどうしてくれんの。」 「言った通りにする。なんでもしてあげる。」 「出たよ、涼矢の、なんでも。」そんなことを言いながら俺を縛りあげ、プラグを挿れるような奴だ、こいつは。 「それで?」涼矢は和樹の顔をのぞきこむようにする。 「そうだなあ。」和樹の黒目がくるんと上を向く。少し考えて、その目が涼矢を向く。「目隠しして、後ろ手に縛って、四つん這いにさせて、思い切り後ろから突っ込みたい。」  涼矢が目を丸くする。それからにっこり笑った。「和樹のほうからそんなリクエストが来るとは。……もちろん、いいよ。」 「あのな、誤解すんなよ? 俺が突っ込むんだからな? おまえが目隠しされて、おまえが縛られんの。」 「あ、そっちか。」 「そう。」和樹は涼矢の反応をニヤニヤしながら待った。 「もちろんいいよ。」涼矢は顔色ひとつ変えずにそう答えた。  戸惑ったのは和樹のほうだ。「や……優しくできねえかもしんないぞ。めちゃくちゃするかも。」 「最高。」涼矢はにこにこしている。 「すっげ痛いかも。」 「痛かった?」 「え?」 「和樹の時。縛ったところが? 何か、無理させた?」 「……ない、けど。」 「良かった。和樹、痛いの嫌いだもんね。でも、俺、結構痛みには強いほうだし。」 「マジかよ。」 「命の危険を感じたら言うから。そん時はさすがにやめてね。」 「いや、そんなことしねえけど。」和樹は一拍置いて、続ける。「いやいや、そもそもしねえよ。縛ったりとか。俺は。」 「しないんだ?」涼矢はずっとにここにしていて、感情が読めない。 「……しない。」 「つか、できないんだろ? 和樹、優しいもんな。」 「おまえはするよな。」和樹はうつむいて、涼矢に顔色を見られないようにした。「優しい、けど。」しかし、赤くなった耳たぶまでは隠せなかった。 「うん。だって、和樹が気持ちよさそうだから。」涼矢はその耳たぶを唇で挟むようして、キスをした。 「んなわけ……。」 「いいよ。明日は、そういうこと、しよ?」 「馬鹿、しねえっつの。」 「分かった分かった。普通のね。優しいのしような。」 「またそういう言い方する。……いいよ、別に優しくなくて。」 「いいの?」 「おまえの好きにしていい。」和樹はそう言うと涼矢を押しやり、立ち上がった。「そろそろ、帰る準備しないと。」 「そうだね。」そう言いつつも、涼矢は立ち上がらずに、スマホをいじりはじめた。 「何してんの。」 「明日の予約。」 「フロントでするんじゃないの。」

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