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第502話 Spectrum(22)
気まずいと言うほどではないが、どこかぎくしゃくとした雰囲気のまま、ルームキーを渡された涼矢と部屋に向かった。昨日とは違う部屋だが、似たような広さの似たようなモノトーンの部屋だった。窓からの景色も隣の建物の壁が迫るばかりで、やはり、いいものではない。
「ベッド、くっつける?」和樹は言った。
「うん。」
昨日と同じようにシングルベッドをつけた。
「ごめん。」一緒にベッドを押しながら、和樹が言う。「さっきの。」
「うん。」
「泊まれないのに。」
「もういい。分かってた。ただ、ちょっとすねてるだけだから気にすんな。」
「すねてるのかよ。」和樹はホッとしたのも手伝って、笑う。「でも、ごめん。」
「うん。」ベッドの準備が済むと、涼矢はその上に寝転んだ。「余裕ないんだよ。だからああいうのも、冗談として受け止めきれない。」眼鏡とマスクは外したが、その代わりのように、自分の腕で目隠しをした。
「余裕。」
「明日は、会う暇ねえだろ。」
「……うん、昼の新幹線。」
「駅まで送る?」
「いい。親父が送ってくれるって言ってるし。ほら、親父のほうが休み長くて、ヒマしてて。」
「そっか。」
「だから、今日が……。」
「分かってる。」涼矢は壁のほうに向かって横向きに姿勢を変える。和樹に背を向ける格好だ。「だから、余裕ない。」
和樹もベッドに乗り、背後から涼矢を抱きしめた。涼矢のうなじに口づける。「隙あり。」そんなことを言いながら、耳裏や首筋に口づけを繰り返した。
涼矢は顔だけ振り向いた。柔和な表情に戻っていて、和樹は安堵した。だが、すぐに、柔和というよりは何か企んでいるような笑顔に変わる。「なんだっけ、俺に目隠しして、縛って、突っ込みたいんだっけ?」
「そうそう。」和樹は服の上から涼矢の体をまさぐる。乳首を探り当てると、爪先で布越しにこする。
涼矢は「ん。」とだけ言って、一瞬身を震わせた。「いいよ。和樹の好きにして。」
「好きにする。」そう言いながら、和樹は涼矢のシャツのボタンを外していった。
涼矢はその手を取り、指先を舐める。「俺、何したらいい?」
「何もしなくていい。」和樹はその宣言通りに、自分で脱ぐと言うのを制して、涼矢の服をすべて脱がせてやった。それからその足の間に入り込んで、顔を埋めた。
「あっ。」涼矢が短く喘ぐ。和樹が舌先で舐る。そうかと思うとすっぽりと咥えて、吸い込むようにする。「あ、かず、んんっ……あ、あっ。」
上顎の内側に涼矢の硬くなりつつあるペニスを押し付けてしごく。ああ、確か涼矢、口ん中の、ここが気持ちいいって言ってたな……。そんなことを思い出して、和樹は唇でこすりあげるようにしながら、いったん口を外した。「ね、俺のもして。」和樹が下半身をくねらせて移動する。それぞれの股間が、それぞれの口元になるように。つまり、シックスナインの体勢に。
涼矢は目の前に来た和樹のそこを、ためらうことなく頬張った。その瞬間は、和樹は「んあっ。」と少し大きな声を出して体をしならせた。それから負けじと涼矢のそこを咥えた。
互いのくぐもった喘ぎと、ピチャピチャという水音と、ベッドが軋む音。ひとしきりそれらの音が響いて、やがて涼矢が和樹のアナルのほうに舌を伸ばした。
「んあっ。」と和樹が声を上げ、動きを止める。涼矢は更にそこを押し広げようにして、舌先を硬くして、少しでも中へと入っていく。「あっ、や、だめ……。」和樹がビクビクと反応する。涼矢のペニスを舐めるどころではない。泣き声に似た喘ぎをして、ただ快感に集中する。
涼矢の舌がふいに離れた。和樹の腰をつかんで、方向を変えさせる。後背位の格好にさせたところで、手を伸ばし、自分のカバンからローションとコンドームを取り出した。無言で和樹のそこをローションで塗らし、指を挿入する。くちゅくちゅ、という音が響く。
「いい? 大丈夫?」涼矢が問いかけた。
「ん。」
そんな風に優しく確認するのもされるのも久しぶりの気がした。最近はいちいち確認しなくてもタイミングが分かる。あるいは、挿れたい、挿れてほしいと赤裸々に言うことに抵抗がなくなったから。
「あ……。」ゆっくりと入ってくる涼矢の熱。舌と指で充分にほぐされているそこに、それでもいくらかの抵抗をされながら突き進んでくる、涼矢のペニス。自分がその専用ケースにでもなった気がするぐらいに、ぴったりと一致する形。涼矢もまたそれを確かめたいのか、丁寧になぞるように、ゆっくりとしか動かない。「もっと……強くして、いいから。」
「うん。」そうは返事するが、優しいままだ。愛撫のような挿入に、和樹が焦れる。
「焦らすなよ。」
「これじゃイケない?」
「退屈で寝ちゃう。」
「ひど。」涼矢は苦笑して、さっきローションを出したバッグから、また別の何かを取り出した。そのために体をひねった刺激だけで和樹はまた「あっ。」と声が出てしまい、少し悔しい気がした。
「何やってんだよ、こっち集中しろよ。」悔しさを隠しがてら、和樹は強気な言葉を吐く。
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