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第504話 Spectrum(24)

「何?」和樹の肌に手を滑らせながら、涼矢が聞き返す。 「も……いいから、早く、終わらせて。」 「イキたいってこと?」 「なんでもいいから。」暗闇の恐怖から解放されたい。それ以上に、愛撫のゆるい刺激でなく、決定打が欲しい。 「そんな言い方じゃ勃たない。」涼矢は再び和樹を四つん這いにさせ、アナルに指を挿れる。 「いっ。」と和樹が短く呻く。 「痛い?」指の動きを止める。 「……くない。」 「続けていい?」 「いいけど、いいから。」 「何それ。」 「さっさと突っ込めっつってんだよ。」  和樹がそう言うと、涼矢は指を抜いた。いよいよ「それ」が来るのかと和樹は期待したが、しかし、涼矢が次にしたことは手首のハチマキを取ることだった。それから目隠しを外した。一連の動作はあっという間だった。アイマスクを外された和樹は、外界の明るさに慣れずに何度も瞬きを繰り返す。そうしてやっとまともに周りが見えるようになって、最初に確認したのは涼矢の表情だ。そうでないといい、と願ったが、残念なことに涼矢は仏頂面をしていた。 「何?」和樹は寝そべったまま涼矢を見上げた。 「こっちのセリフ。」 「半端なとこでやめんなよ。」無意識に手首をさする。急激に萎えていく。涼矢にしてもそうに違いなかった。 「優しくなかった?」 「あ?」 「優しくしたつもりなんだけど。」 「……こういうことしといて、優しくしてるとか。」和樹の視線の先にはアイマスクとハチマキ。 「ごめん。」 「……え?」 「そんなに嫌がってるって思ってなかったから。」 「別に嫌がっては……。」言いかけて、自分の言おうとしている内容に気づいて、赤面する。 「早く終わらせたがってたし。」涼矢は機嫌が悪いのではなく、落ち込んでいるのだ、と和樹はようやく理解した。自分が和樹に無理強いをしたと、勘違いしているのだ。 「それは。」焦れったかったから。優しい愛撫では物足りなかったから。もっと強い刺激が欲しかったから。もっと涼矢に、強引に、されたかったから。和樹は体を起こし、涼矢と向き合った。「あの。」こんなこと、自分から言うもんじゃねえだろ。和樹は前髪を掻きむしって言葉を考える。しかし。――察しろよ。改まって言えるかよ。恥じらいってもんがあるんだよ、俺には。「別に、嫌とかじゃなくて。」  こういう勘違いはどう正せばいいのか。和樹は元カノとの経験を引っ張り出して考えるが、思い当たる事例はなかった。セックスは好きなようにしていたし、それで文句を言われたことはない。それは不満がなかったからではなくて、言い出せなかっただけのことなのだと知ったのはミサキに罵倒された時だ。――まあ、こうなってみて分かったけど、確かにそういう要求ってのはなかなか言えるもんでもないわけだよなぁ。文句を言わなければ満足してるんだと思って、済ませてきたけど。つきあって、深い仲になってから振られるってのは、そういう独りよがりも、原因のひとつだったんだろう。  そう思うと、涼矢の勘違いは、自分にはできなかった気遣いだった。 「あの……あのな。」うまく言えない。「好きにしていいんだって。」ごく小声で和樹は言う。 「嫌だよ、そんな、自分だけ。」 「だから、いいんだって。」和樹は思わず涼矢から顔を背ける。「そうされたいんだから。」 「……え?」 「おまえだって言うじゃないかよ。俺のしたいようにしていいって。何でもするって。同じだよ、だから。」緊張で、何度も鼻の頭を掻いたり、口元を撫でるようにしたりと、落ち着きなく動く。「おまえが縛りたければそうすりゃいいし、目隠しした俺に昂奮するならそうしていい。嫌じゃない。」 「でも、そういうのは、和樹がそうしてほしいって思ってないんだったら、無理には。」 「だから、そうしてほしいんだって。」和樹は泣きそうな顔で涼矢を見た。「縛られたいんじゃないし、目隠されたいんじゃないけど。」最後はやはり顔を見ては言えずに、うつむいた。「涼矢にめちゃくちゃされたい。」 「……あ。」 「言わすな、こういうことを。」和樹は涼矢を押し倒して、その首筋に噛みついた。 「痛っ。」と涼矢が顔を歪める。だが、それと同時に和樹をぎゅっと抱き締めた。 「平気だろ、そんぐらい。」 「ああ。」涼矢は笑って、和樹にキスをした。「平気だし、嬉しい。」 「俺も平気だから。んで、嬉しいから。」  欲しいのは涼矢の衝動だ。見境なく自分に挑んでくる剥き出しの欲望だ。  和樹は荒々しく涼矢の乳首にも吸い付き、萎えてしまったペニスを握る。「これ、欲しいから、さっさと勃たせて。んで、おまえも俺のこと、欲しがって。優しくすんな。そういう余裕見せんな、っつってるの。」 「そんなこと言ったら、壊しちゃうよ。」 「壊せよ。」 「たまんないこと、言うなぁ。」涼矢は和樹の頬を撫で、その手を腕に移動させたかと思うと、技でもかけるようにして、素早く和樹をひっくり返した。「おまえが言ったんだからな。」再び情欲をともした目で和樹を見て、涼矢はむしゃぶりつくようにキスをした。

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