壊されてもいいのだ、と和樹は思った。が、次の瞬間には、それを否定した。 ――俺は、ずるい。涼矢がそんなひどいことをしないと知ってて、そんな風に思ってる。涼矢は優しい。そして、俺の一挙手一投足を気にして、わずかな顔色の変化から、声の震えから、俺の異変を察知しようとする。ベッドではひどいことを仕掛けているようでいて、実際はその反対だ。常に神経を張り巡らせて、俺の反応を知ろうとする。今回だってそうだ。気を使い過ぎての勘違い。俺がちゃんと欲しがれば良かったのだ。 「涼。」その時は正常位だった。お互いの顔を見ながら、涼矢は和樹の中心部を貫いていた。「涼、来て。もっと近く。」和樹は涼矢に絡めた腕に力を込めて、更に引き寄せる。「好き。」眼前に迫った涼矢にキスをした。「大好き。」もう一度。それから少し微笑んで、「気持ちい。」と言った。 「うん。」涼矢は少し顔をしかめていた。イキそうだったし、泣きそうだった。それを我慢したら、そんな表情になった。しかし、和樹が、それを不快の表情に"勘違い"することはなかった。いつもなら先に「好き」と言う涼矢だ。そうでなくても「俺も好きだよ」と返すはずの涼矢だ。そう言わずにそんな表情を浮かべるなら、それは、自分のために、何かをこらえているのだと知っていた。 「我慢しないで。」和樹が涼矢の唇に触れる。「イッていいよ。」 「一緒に……。」 「うん。でも、これで終わりにする気ないから。」和樹は喘ぎながらもそんなことを言う。「何回でもつきあうから。」 「馬鹿、俺がもたねえよ。」 「だいじょぶ、俺が搾り取るから。限界まで。」 「怖(こわ)。」それだけ言うと、涼矢は目をつぶり、腰の動きを速くした。 「あっ、あっ……い、気持ちい、涼っ。」和樹の指先に力が入る。 「イク。」小さくそう言って、涼矢は果てた。 　それから何度も抱き合った。上京前夜と同じだ。ただあの時ほどの悲壮感はない。また会える。会いたければいつでも会える。台風の中でさえ、その気になれば会えたのだから。あるいは、会えなくてもいい。電話だけでも、メッセージのやりとりだけでも、心を通わせることはできる。そんな自信ができた。 「愛してる。」その時は背面の座位だった。涼矢は和樹を背後から抱いて、その耳元で何度も囁いた。突き上げられながら、和樹は同じ言葉を返した。 　射精に至る前に、和樹は振り向き、背後の涼矢に言った。「ね、涼、縛って。」 「え。」涼矢の動きが中断する。 「さっきの、続き。」 「でも……。」 「目隠しは嫌だ。けど、縛って。」 　涼矢はいったん和樹を下ろして、さっきのハチマキを取ってきた。「どういう風にしたい？」 「う……ん。頭の上かな。こう。」和樹は仰向けに横たわり、頭上で祈るように手を組んだ。 　涼矢は言われた通りに縛る。「きつくない？」 「大丈夫。」 　涼矢は結び目の堅さを確かめるように触りながら、和樹にキスをする。和樹は笑っていた。 「縛られてるとさ、余計な動きができない分、集中できる感じ。」 「どこに？」涼矢は悪戯っぽく笑う。当然答えは知っている。 「ここ。」和樹は膝を立て、足を開く。 「ここ？」涼矢はそこに指を挿れる。もう何度も拡げたそこは、コンドームが間に合わなかった時もあるし、ローションもたっぷり残っていて、充分に濡れている。何の抵抗もなく、するすると指が入っていく。 「んっ。」和樹が反射的に膝を合わせて閉じようとするのを、涼矢が制止する。 「見せて。和樹の、やらしいとこ。」 「やめっ。」 「もう広がっちゃってるから、２本じゃ物足りないね？」涼矢はペニスもしごきだす。 「あっ、ちょっ、無理、前は、いいからっ。」 「ヒクヒクしてる。」 「言うな。」 「可愛い。」涼矢は和樹のペニスの先端を強めに握った。「こっち触んなくてもイケるもんね。」 「黙って。」 「女の子の中ってさ、気持ち良いんだろ？　これ、挿れると。」涼矢はアナルの指を動かしながら、亀頭をきゅっと握る。 「何言って……。」 「どっちが気持ちいい？　今は。」涼矢はアナルの指を一気に引き抜いた。 「ひぁあっ。」和樹が全身を震わせる。 「これ？」涼矢はペニスをしごいた。和樹は恥ずかしそうに首を振る。「じゃ、こっち？」再びアナルに挿入し、前立腺を刺激する。 「あっ、やぁっ。」 「こっちが好きなんだ？」意地悪な質問に、和樹は何度も頷いた。 「好き……から、挿れ……。」息を荒くする和樹。涼矢はそこに自分のペニスをあてがった。ゆっくりと中に入ってきた。すっかり中まで入ってしまうと、今度は急に激しく動き出した。「ああっ、あん、りょ、手、前、さわんなくていいからぁっ。」ペニスの手が邪魔だ、と和樹は思った。そんなことをされたら早くイキ過ぎる。アナルだけで良い。 「出すなよ。」と涼矢が言った。一瞬意味が分からなかった。だが、亀頭を握る涼矢の手が更にきつくなり、少々痛いほどだ。それに追い打ちをかける涼矢の言葉。「こうして、蓋しておくから。」 「なっ……。」 　前にもあった。ペニスをぎゅっと締め付けられて、射精させてもらえなかった。その代わり、何度も何度も絶頂を迎えた。それがドライでイクということなのだと涼矢に言われた。今またそれをされそうになっているのだと分かった。