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第560話 Spring has come (3)
「うん。俺を好きになってくれて。そんで、それをちゃんと、伝えてくれて。」
――いや、それは、そんな。
「あと、いろいろおまえを傷つけたのに、許してくれたし、待っててくれたし。それと。」
――もういいよ。充分。
「まだある。これからも一緒にいてくれるって言ってくれたし。そういうのぜんぶ、感謝してる。」
――それ、そっくりおまえに返すわ。
「喧嘩の時に言うセリフだろ、それは。」和樹は笑う。
――ありがとうも含めて、熨斗つけて返す。俺のセリフだから。
「おまえさ、また、自分のほうが先に、勝手に好きになったんだからなんて、この期に及んで言うつもりじゃないだろうな?」
―― ……だって、そうだし。
「1年付き合ってまだ言う? もういいだろ、どっちが先とか、関係ねえよ。」
――そっか……。でも、1年、あっと言う間だった。
「うん。」
――いろいろあり過ぎて、すごく前のことみたい。
「そうだな。」
――あんまり会えなかったけどさ。でも、すげえ楽しかった。
「過去形で言うなよ。」
――これから、もっと楽しくなる?
「ああ。だって、大学出たらもっと一緒にいられるし。」
――毎日一緒にいたら嫌になるかもよ。
「ならねえよ。」
――また面倒くさいこと言い出すかもよ。
「慣れたよ。もうそれ込みでこその涼矢だと思ってるよ。」
――はは。
「笑ってるし。」
――すごいね。なんか、本当、夢みたい。和樹にそんなこと言われるなんて。
「おまえね、それ、すっげえつきあい始めの頃と同じこと言ってるぞ。」
――じゃあ、ずっと夢見てんのかな。
「現実だっつの。」
――俺のほっぺた、つねってよ。
「自分でやれ。」
――イテッ。
「マジでやったのかよ。馬鹿だな。」和樹は笑う。
――俺のこと、好き?
「好きだよ。それ、今聞く?」
――今だから聞いてんの。つねって、夢じゃないって分かったところで。
「はいはい、好きですよ、大好きですよ。」
―― ……会いたいな。
「来いよ、すぐ。車飛ばして。」
――行こうかな。
「うん。部屋中飾り付けて、待ってる。」
――なんで飾り付け?
「お祝いだろ。1周年の。」
――そんなのしなくても、和樹がいればいいよ。
「つまんねえの。サプライズにしときゃ良かったかな。」
――和樹、そういうのする人だったっけ。
「しない人。」
――だよね。
「そもそも記念日も重視しない人。」
――平気でイブに講習入れる人だもんな。
「そうそう。……っておい。いつまでそのネタ引きずるの。」
――でも、1周年は覚えててくれたんだ?
「俺の最長記録だもん。1年つきあった相手なんかいなかったし。最長半年程度だよ。」
――そうなんだ。
「そうだよ。おまえは、だから、特別。」
――そんなこと言っても、何も出てこないよ。
涼矢は照れくさそうに笑った。
「何も要らないよ。……けど、2周年も、3周年も、ずっと、祝えたらいいなって思う。」
―― ……やべ、泣きそうになるからやめて、そういうの。
「プロポーズとどっちが感動した?」
――そういう余計なこと言うんじゃないよ。
「ごめんごめん。で、どっち?」
――どっちも感動したよ。あぁ、やっぱ行くのやめた。
「え、今ので気分を害した?」
――それもあるけど、元々明日予定入ってた。
「何の。」
――なんだっていいだろ。
「あ、隠しごとしてる。」
――隠してないよ。ただの英会話レッスン。
「へえ。行きはじめたんだ?」
――行かない。スカイプでやる。
「おまえも留学? 哲に対抗して?」
――そういうこと言いそうだから言いたくなかったんだ。関係ねえっつの。前から考えてたの。けど、留学はしない。今既に限界なんだから、海外まで行けるか。
「何が限界?」
――和樹不足。
「会える頻度は今と大して変わんないんじゃないの。それにスカイプできるならそれで。」
――おまえはそれでいいの?
「あ?」
――俺は嫌だな。めったに会えないのは同じでも、車飛ばせばたどりつけるところにはいたいよ。それ以上はさすがに……怖い。
「淋しい、じゃなくて、怖い、なんだ?」
――うん。
「俺が浮気でもするんじゃないかって?」
――それはあんまり疑ってないけど……そんなのより、今回みたいな急病とか、何かあった時のことを想像すると、駆けつけられない距離ってのは、やっぱり怖い。
「確かに、おまえと一番連絡取ってるしな。俺に何かあったら、おまえが一番最初に気が付くかもな。」
――今回は気づかなかったけど。だからさ、本当は、できることなら部屋の中に閉じ込めておきたいぐらいだから。
「監禁するなよ。」
――我慢してる。だから、これ以上離れるのは無理。おまえが留学するって言うなら、そこに着いてく。
「怖いなあ。将来が不安になってきた。」
――今更別れるとか言ったら、婚約不履行で訴えてやる。
「マジで怖え。つか、1周年おめでとうって会話してたのに、物騒なこと言うなよ。」
涼矢が電話の向こうで吹き出したのが聞こえた。
――悪い。そうだな。……とにかく、夏休みの前のどこかで、会いに行くようにするから。
「ああ。」
―― ……ということで、ええと。
「何だよ。」
――1年間、ありがとうございました。
「あ、はい。」
――今後ともよろしくお願いします。
「……おう。こちらこそ末永くよろしくお願いします。」
和樹は無意識にお辞儀をしながら言う。そして、一瞬の間があり、二人同時に笑い出した。
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