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第577話 まだあげ初めし (17)

「和樹も1年前とは変わったよね。」涼矢が中で指を動かすと、その度に和樹がピクンピクンと反応した。うう、と呻くような喘ぎが、枕に吸収されきれずに漏れ聞こえてくる。枕を抱きかかえる腕に力が込められる。そんな風に強く抱くなら俺にすればいいのに、と涼矢は思う。右手の中指を和樹の中にねじ込みながら、左手で和樹の後頭部の髪を引っ張るようにして、顔を上げさせる。「ねえ、顔、見せて。」 「やっ……。」和樹は一瞬顔を上げると、すぐに横を向いた。フラッシュの光を眩しがるような仕草で、手で顔を覆い隠しそうとしたが、涼矢はその手をつかみ、和樹の背後の壁に押し付けた。「こっち見んな。」と、和樹はうつむきがちになる。 「なんで。無理。」涼矢は壁の手を固定したまま、和樹を覗き込むようにして、下から口づける。その間も右の指は和樹の中を探っている。やがて指は他の場所と違う感触のところにたどりついた。 「んっ。」キスで口を塞がれたままの和樹が激しく反応する。 「ここ、いい?」  和樹は相変わらず視線を合わせようとはしないが、その質問には素直に頷いた。頷いて少し気が抜けたのか、意地を張る余裕がなくなったのか、涼矢の指の動きに合った荒い息遣いも短い喘ぎも隠さなくなった。 「指、増やしていい?」 「ん。」和樹はこれにも頷く。本当はもっと早くそうしてほしかったし、そんなことをいちいち聞くなと言いたいぐらいだった。だが、そんなことを言えばまた、涼矢は揚げ足を取るように、じりじりと言葉で攻めてくるに違いなかった。そうして、まるで自分が淫乱みたいな言い方をされてプライドを傷つけられて、そのくせ体はそういった言葉に反応してしまって、それでまた涼矢にいいように嬲られて、そのうち頭が真っ白になるまで何度もイカされて、それで。  次第にぼーっとしてくる頭で、和樹はいつの間にか枕をどかして、涼矢にしがみついて膝立ちしていた。涼矢の指が侵入しやすいように。自分から腰も揺らしていた。その圧迫感から、指は更に増やされているようだった。いつからそれを受け容れていたのかはもう分からない。  胸元に涼矢の顔があった。今は乳首を口に含んでいる。マスターベーションの時には触ったことのないそこは、涼矢が歯を立てて初めて存在を思い出す。甘噛みされる快感に震えながら、涼矢もそうされたいのだろうかと思う。でも、今の体勢では涼矢の乳首に口づけることはできない。和樹は涼矢の両の耳に手を当てて顔を上向かせると、その額と頬にキスをして、それから乳首の代わりに唇を甘く噛んだ。 「涼、挿れて。」ダイレクトな要求をすると、涼矢は指をずるりと抜いた。その刺激だけでもイッてしまいそうだった。「早く。我慢できない。」  涼矢は何も言わないが、和樹の背に手を置いて、仰向けに寝るように促した。和樹が放置した枕を腰の下に置くとすぐにアナルへの挿入を始めた。 「あっ、あっ、あっ」とリズミカルな喘ぎが響いた。上り詰めて行くにつれて、声が高くなっていく。「あ、イキそ……。」と呟くと、逆に涼矢の動きが止まった。反射的に「やめないで」と口にしていた。  薄目を開けると、涼矢が苦悶の表情で和樹を見つめていて、目が合った。なんでそんな表情(かお)なんだろう、と思いながら、手を涼矢のほうに伸ばして、頬を包むようにした。上気してピンク色の頬だ。けれど自分の体も熱くて、涼矢の体温が普段より高いのかどうかは分からない。涼矢がその手を取り、手の平に口づける。その優しい唇に、愛していると言われているような気がした。手へのキスを終えた涼矢は、さっきの苦悶の表情から一転して、柔らかな微笑を浮かべていた。  体を繋げたまま、そんな風に見つめ合う。やがて涼矢は、和樹の片足を持ち上げた。いわゆる松葉崩しの体勢だ。微笑が再び苦悶するような表情に変わったかと思うと、涼矢はペニスをギリギリまで引き抜いた。かと思うと一気に深く挿入する。「ああっ……!」ひときわ高い声が出てしまう。でもそれをこらえることはもうできなかった。涼矢は何度もその動きを繰り返す。その度に腰から下をまるごと持って行かれる気分になる。「イク、涼、イキたい……。」和樹もそんな言葉を繰り返す。 「いいよ、イキな。」アナルへの刺激よりも、その涼矢の声でイカされる。自分の精液が自分の胸元近くにまで飛んできた。射精後のぼんやりした頭には、「やらしい眺め。」という声は遠くから聞こえる気がした。 「涼矢もイッて。」和樹はぼうっとした中でも意識してアナルに力を入れた。涼矢のそれが萎えていないことが分かる。 「ん。」涼矢がさっきと同じ動きを再開した。涼矢にイッてほしかったのに、またぞろ自分の快感が高まっていく。 「イッたばっかなのに。」喘いでいるのは和樹のほうだった。 「いいよ。何回でもイキなよ。」  そのセリフは自分が言うはずだったのに、と思いながら、でもどうでもいい、とも思う。「おかしくなりそ。」

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