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第586話 まだあげ初めし (26)
「あっ……んっ……。」和樹の腕をつかむ涼矢の手指に力が入る。
「大丈夫?」悪い反応じゃないと知りつつも、つい、そんな風に聞いてしまう。
「あ、そこ、きもちい……。」
まだそんなに深くは突いてない。おそらくは前立腺にあたっての反応だ。和樹は少しだけスピードを速めて、その浅いところを重点的にこすりあげるようにした。自分のペニスのカリ首のくびれが、そこをひっかくように意識しながら。かつての彼女たちに対しても似たような「工夫」はしたけれど、それがどれほどの快感なのかは自分が「そうされて」初めて知った。知っているから、より分かる。奥をただ強く攻めればいいわけではない。こうして相手の反応を見て、探りながら。お互いの息を合わせながら。
「涼、好きだよ。」けれど、結局はそんな言葉に一番良い反応が返ってくる。涼矢がしがみつくように腕を回してきて、その手の熱さが直接届かないことで、服を着たままだったことを思い出す。「もっと、奥まで、していい?」
返事の代わりに、背中の手に力が込められた。
ぐいと腰を押し出すと、涼矢の体が弓なりにしなった。涼矢は苦しそうに眉間に皺を寄せているが、それは自分の中で果てる時と同じだと、和樹はもう知っている。だから容赦なく突いた。
「あっ……! かず、い……ああっ、やっ……く……んっ。」
和樹は両腕は涼矢の顔の脇に立てている。さながら涼矢の上で腕立てをしているようだ。「前は自分で触って。」そう言うと、涼矢は素直にペニスに触れた。和樹に貫かれ、自分でもペニスをしごき、短い呼吸を繰り返す涼矢の口をキスでふさぐと、涼矢はいやいやをするように顔を振った。息苦しかったのか、イキそうなのをこらえているのか。
「かず、中、出して。」どうやら後者のようだ。紅潮した頬と熱っぽい目で、そんなことを言う。中と言われてコンドームをつけていなかったことに気付き、慌ててコンドームの箱に手を伸ばしながら、一度抜こうとすると、涼矢が必死でそれを止めた。「中、そのままでいい、から。早く。」
「いいの?」と再度確認すると、涼やはうんうんと細かく頷く。そんな涼矢がやたらと可愛く見えて、「かきだすの、俺がやっていい?」などと聞いてしまう。
「いいから。」いつになく余裕のない上ずった声で涼矢が言う。なんだか泣く寸前のような顔をしている。
「イクの?」
「ん。」
「気持ちいんだ?」
「ん、気持ちい。」
「よかった。」優しくそう言いながらも、動きは多少荒っぽく、和樹は涼矢の中を何度も貫いた。
「はあ。」とため息のように大きく息を吐いたのは涼矢だ。その頬を和樹は手の甲で撫でた。
「平気?」
「ん。」腕をまぶたに載せて、もう一度、ふう、と息を吐いた。「やっぱ、こっち、疲れるな。いつも悪いな。」
和樹が笑った。「悪いってことはねえだろ。」
「疲れるだろ? それとも、慣れるもの? 疲れない技とかあんの?」
また声を立てて笑う。「技はねえけど、まあ、慣れるよ。」
涼矢は腕を外して、和樹を見る。和樹は横たわったまま肘をついて、涼矢を見つめていたから、目が合った。
「俺はいいんだからな、どっちでも。」真面目な顔で涼矢が言った。
和樹は身体をずらして、涼矢の肩に頭を載せた。涼矢の手が伸びてきて、その頭を抱え込むようにする。されるがままの和樹が呟いた。「俺はね、抱かれるのが好きだよ。」
「……っていう気はしてたけど。だったら今日はどういう風の吹き回しで?」
「単なる気分。」和樹はまた上半身を動かし、うつ伏せになると、匍匐前進のようにして、今度は涼矢の耳元に口を寄せた。「おまえに抱かれるのは、すっげえ気持ちいい。頭真っ白になる。腰から下が溶けたみたいになる。だから、おまえにも、そういうの、たまには味わわせてやろうかと。」
「ははっ。」
「涼矢さ、イク時の顔、違うのな?」
「えっ?」
「俺の中でイク時と、今日と。違ってた。」
「……それは……分かんないけど、自分では。」
「なんか今日、可愛かったし。泣きそうな顔してて。声とかも。」
「もういいよ、そういうの。」涼矢がぷいと横を向いた。和樹は涼矢のそんな態度を見て、おもしろそうに笑った。
「初めての時もそんなだったなあ、なんて思い出しちゃった。あん時はおまえ、可愛かったもんなあ。」
「それを持ち出すのは卑怯。」涼矢は和樹の足を軽く蹴飛ばした。「あ、やば。」
「何?」
「風呂、入る。」突然涼矢が起き上がろうとする。下半身を庇うように慎重に動く姿を見て、和樹は思い出す。
「ああ、中出ししちゃったもんな。」和樹も起き上がった。
バスルームに向かう涼矢の後に続こうとすると、涼矢が睨んできた。
「だって、かきだすのは俺がやるって、約束したろ?」と和樹が言った。
「ああいう時の約束なんか無効。」
「一方的に無効にするなよ。やるからな。」
涼矢は無言でそっぽを向き、再びバスルームへと歩き出した。
結局ほぼ服を着たままだった和樹は、この段に及んでやっと服を脱いだ。全裸の涼矢はさっさとバスルームに入っていき、すぐにシャワーの音がした。和樹が慌ててドアを開けるとちょうどシャワーがこちらを向いていて、和樹は水浸しにされた。「うわっぷ。」と顔をしかめる和樹だが、涼矢は謝りもせず、だが一応はシャワーヘッドの向きを変えた。
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