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第597話 fingertips (2)
「出たくないっていうかね。」和樹はベッドにもたれて座っている涼矢の隣に、ちょこんと座った。「やっと2人だ。」床に置かれている涼矢の右手。その小指に、自分の左手の小指を絡める。
「うん。」
「そういや、大学の友達、できた?」和樹は笑いながら言う。
「宿題か。」
「そう。」
「いくつか授業被ってる奴とかは、会えば話すし。」
「誰かと学食でメシ食ったりしないの?」
「するよ。タイミングが合えば。」
「なんか、女の子で仲良い子いるって言ってなかったっけ。」
「ああ、その子たちは学部が違うんで、今年度に入ってからはめったに会わないな。」
「何学部の子?」
「英文。」
「へえ。」
「可愛い?」
「俺にそれ聞く?」
「だって、大学の話、あんまりしないからさ、おまえ。」
「大学の話じゃないだろ、今のは。可愛い女の子かどうかなんて。」
「女の子と、どんな顔して、何の話するのかなって。想像つかない。」
「いつも通りだよ。ちょっと怖がられながら、淡々と、普通に、必要最低限のことを。」
「怖がられてる自覚はあるんだ?」
「まあな。でも気さくな奴だと勘違いされても困るから。ちょっと怖いと思われるぐらいでいい。」
「怖くないのにな。」和樹は涼矢の手をつかんで、自分の口元に寄せる。その手の甲にキスをした。
涼矢は和樹に手を預けて、されるがままになっている。「男は俺のこと怖がらないけど、面白くない奴って思ってる。でも、それも、それでいい。実際面白くない奴だし。」
「面白いよ。興味深いって意味では。」
「俺に興味なんかあるの?」涼矢は和樹を横目で見てニヤリとした。
「あるに決まってるだろ。」
「物好きだな。」涼矢は笑う。
「物好きじゃなくて、ただの、好き。」
涼矢はニヤけていた顔を一瞬にしてこわばらせた。「まいったな。」
「何が。」
「そういう不意打ちはヤバい。」表情は再び緩むが、頬が赤い。
「ヤバいとどうなんの?」和樹もニヤニヤしだす。
「え。」
和樹は戸惑う涼矢の髪の毛をまさぐり、指先を耳の下から首へと滑らせていった。「おまえは俺に興味ないの?」
「そりゃあ……。」
「あ、でも、俺より俺のこと詳しいんだもんな? なんでも知ってるもんな?」和樹は涼矢の髪を耳にかけて、露出した耳をかじるようなキスをした。
「かず。」少し困った顔を浮かべながら、涼矢はわずかに身をよじらせ、耳元の和樹の顔を避けるように動いた。
「なんでよけんの。」
「ご、ごはん作ったりしなきゃ。」
「まだ5時半だよ。」
「だって、和樹がさっき、晩飯何って。」
「家にあるものでいいよ。おまえが持ってきてくれたの、食べようよ。」
「あれは俺が帰った後に、おまえが食べるための。」
和樹は涼矢の鼻をギュッとつまんで、すぐに離した。「だからさ、帰った後の話するなよ。」
涼矢はつままれてほんのり赤くなった鼻を気にしながら、不満そうに口を尖らせた。「そんなこと言ったって。」
「もっとこう、がっついてこないかな? 久々に2人きりでさ、メシの心配とかそんなの、どうでもいいってならない?」
「なるよ。なるから必死に我慢してるのに。おまえの体のことだって、昨日の今日じゃしんどいだろうと思って。」
「昨日の今日なら、おまえも同じだろ。」
「だから、思い出したんだってば、そういうの。昨日だって結局、最後は……その、だから、和樹のほうが負担大きかったよなって。今まで勝手にやり過ぎたなって、反省してんだよ、こっちは。」
「俺がいいって言ってるんだから。」
「いいとは言ってないだろ。」
「今そういう流れだっただろうが。いいって言ってるのと同じだろ。」
「分かんないよ、そんなの。ちゃんと言ってよ。」
「ちゃんとっておまえ。」和樹はそこまで言うと、吹き出しそうになるのをこらえた顏になる。「分かったよ、ちゃんと言えばいいんだな?」和樹は身体を反転させるようにしながら腰を浮かし、ベッドを背もたれに膝を立てて座っていた涼矢に、対面する形でまたがった。腕は涼矢の首に回す。「エッチしよ。」わざと腰をくねらせ、涼矢の股間を刺激する。涼矢のそこは、すぐに反応を返してきた。「俺のこと、好きだろ?」
「当たり前だろ。」
「ちゃんと言ってよ。」さっきの涼矢の口ぶりを真似る。
「好きだよ。」
「俺のこと、抱きたい?」
「うん。」涼矢の腕が和樹の背に回った。
「だったら、もっと欲しがれよ。」
「欲しいよ。」涼矢は背中の腕を和樹ごと自分に引き寄せて、和樹に口づける。「欲しいに決まってる。」
「どのぐらい?」
「全部。」涼矢も和樹も舌を出し合い、絡め合う。「くっついて、ひとつになるぐらい」
「ナントカ虫みたいに?」
「フタゴムシ。」
「ははっ。」和樹は笑いながら、涼矢のシャツの中に手を差し入れる。「キモいよな、それ。」
「そんなことないよ。理想。」
和樹はまだくすくすと笑っている。笑いながら、涼矢の首筋にキスを繰り返し、シャツの中では涼矢の素肌を撫でた。
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