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第598話 fingertips (3)

「でも、やっぱちょっと待ってて。」和樹は唇を剥がし、それからシャツの中の手も抜いた。「準備してくっから。」わざとはすっぱな言い方をして、立ち上がる。立ち上がってから、腰をかがめ、改めて涼矢の両頬を覆うように手をあてて、顔を引き寄せ、キスをした。「そっちも準備しといて。」そう言い捨てて、バスルームに向かう。 「メシの準備?」と涼矢が言う。 「言ってろ、バカ。」和樹は振り向きもせずにバスルームに消えた。  涼矢は待ち時間の半分を、実際に夕食準備にあてた。炊飯器に米をセットし、片手鍋で味噌汁を作った。自分が持ってきたいくつかの惣菜をテーブルに置いた。自然解凍で食べられそうなものばかりだ。完全に解凍されるまで抱き合っているかどうかは不明だが。  一通りの支度が済んだところで、上半身の服を脱いで、ベッドに横になる。その姿勢でも、手を伸ばせば、さっき和樹が組み立てたリモコンボックスに手が届く。そこからひとつリモコンを出して、テレビをつけた。ベッド上でテレビもエアコンも操作できるなんて、ダメ人間になりそうだな、と涼矢は思う。思ってすぐ、けれど、意外に和樹はそういうところは真面目かもしれない、と思う。自分のほうが、甘えられる環境にはどんどん甘えてしまう気がする。 「お待たせ。」と、まだ水滴をつけたままの和樹が出てきた。「あ、いい匂いする。おまえ、ホントにメシ作ってたの?」和樹が笑った。 「うん。味噌汁作っただけだけど。」涼矢はろくに見ていなかったテレビを消した。確か歌番組だった。韓国のアイドルグループが出ていたようだが、名前は知らない。テレビ画面が消えたと同時にその記憶すら消えた。 「どうよ、それ。」和樹がダイブするようにベッドに倒れ込んできた。 「それ?」 「リモコン入れ。」 「ああ、便利。ここから届く。」 「だろ?」和樹はしゃべりながら、腰に巻いていたバスタオルをベッド下に蹴落とした。 「まだ濡れてるよ。」涼矢は和樹の湿った肩を抱く。 「平気だよ。」  涼矢は両手で和樹をぎゅっと抱きしめた。「俺に、おまえの体を冷やさないようにしろってこと?」 「そう、それ。」和樹は涼矢を抱き返す。 「でも、和樹のほうが体温、高い。」 「そうか?」和樹は自分の額に手をあてた。 「それじゃわかんないだろ。」涼矢は額の手を、自分の胸に誘った。「和樹の手のほうが、熱い。」 「シャワーしたばかりだから。」 「いつもだよ。」今度はその手を口元に持って行く。和樹の人差し指を口に咥えた。 「おまえだって、口ん中は熱い。」  涼矢は舌で和樹の指先を舐めており、返事はしない。和樹はその指を奥に押し込み、歯裏から口蓋を撫でた。薄く開いた口に、強引に中指も突っ込む。二本の指で涼矢の口の中をまさぐって、口を閉じることのできない涼矢の口の端から唾液があふれた。 「すげえエロい顔。」和樹はそれを見てニヤリとする。指を抜く時には、きゅぽん、と湿った音がした。唾液で濡れた指を、和樹は自分の舌でも舐める。 「そのまま。」と涼矢が言った。 「え?」そうは言われたものの、和樹は反射的に指をどけた。 「舌、出して。」  涼矢に言われた通りに舌を出す。涼矢もいつものキスよりは口を大きく開けて、舌を出した。何をしようとしているのか理解して、和樹は舌先で応えた。唇は触れ合わない、舌だけのキス。湿った音だけがする。 「やらしいキス。」と和樹が言った。 「エロい顔にやらしいキスかよ。」涼矢が笑う。 「最高。」和樹は涼矢の首筋に口づけ、それは順に下へと移動していった。乳首を嬲り、脇腹を舐め、やがて涼矢の臍にたどりつく。和樹は躊躇なくパンツを脱がせ、さっきのバスタオル同様、床に落とすと、露わになったペニスを口に含む。 「んあっ。」と涼矢が身を震わせる。その後は控えめにしか喘がない涼矢だったが、その代わりと言わんばかりに、じゅぽじゅぽと淫らな水音がする。和樹がわざと音を立ててフェラチオをしているのだ。いつもより強く吸われているような気がした。「かず、ちょっ……強い……から。」  そんな言葉は聞こえない。そう言いたげに和樹は激しい口淫をした。だが時折、涼矢の反応を確かめるように上目遣いで涼矢の顔のほうを見た。そんな時は涼矢のほうが身体を弓なりにしているから、表情は見えなかった。 「だめ、だって、も、少し……。」涼矢がじたばたと足を動かし、和樹を遠ざけようとする。和樹がようやく動きを止めて、涼矢のペニスを口から出した。その先端からとろりとしたものが零れている。  和樹はベッドの端に移動して、だが降りることはしないで、手を伸ばした。そうしてさっき自分で落としたバスタオルを拾うと、軽くふたつに畳んで、涼矢の腰の下に敷いた。 「なんか、じめっとする。」と涼矢が呟く。 「関係ねえよ。これからもっと濡らす。」和樹はローションボトルを傾けて、その予告通りに涼矢のペニスにそれを垂れ流す。少し冷たかったのか、涼矢のそこがヒクッと動いた。それから自分のアナルにもたっぷりとローションを注ぐと、涼矢の上にまたがった。すんでのところで腰を浮かせたまま止まり、「俺の、一番熱いとこ、知ってる?」と問うた。

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