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第605話 adolescence : moratorium (5)

 きゅっと頭が締め付けられる。ネクタイの両端が結ばれて、目隠しが完成したのだろう。その作業を終えた涼矢の手が、ゆっくりと和樹の体に巻き付いてきた。かと思うと、耳たぶをねっとりとした舌が這う。「あっ。」と思わず声が出てしまう。  シャツは脱がされなかった。ボタンはすべて外されて、前をはだけている。左肩はスースーするから、その部分はシャツもずり落ちて、肌が露出しているのだろう。その肩にも涼矢が熱い唇を押し当ててくる。  そんな風に涼矢から首や耳や肩へのキスを繰り返し与えられ、それと並行して胸や腹をまさぐられる。2本しかない涼矢の腕なのに、次にどこを触られるか予想できない緊張が、感度を高めていた。腋の下から入ってきた手が乳首をつまんだ時、和樹は思わず自分の手をカーテン越しの窓ガラスについた。――「後ろを向いて壁に手をつけ」、そう言われて所持品検査をされるシーンを刑事ドラマで見た覚えがある。今の俺は、ちょうどそんな体勢だろう。もちろん、探られたところでナイフも薬物も隠し持っていない。何ひとつやましいことはないのに、そもそもそんな命令もされていないのに、何故涼矢の言いなりになっているのだろう、と和樹は思う。 「わっ。」と思わず腰が引けたのは、涼矢がいきなりズボンの上から股間を触ってきたからだ。いや、いきなりでもなかったかもしれない。涼矢の手は順繰りに上から下へと愛撫していた。さっきまで脇腹と胸を触られていたのだから、そろそろ下腹部に来ても良い頃合いではあったのだ。それでも真っ暗な視界では、すべてが予想外の展開の気がしてしまう。  涼矢は片手で和樹の股間を揉みしだきながら、もう片方の手で、和樹の顔を後ろに向けさせた。何か言いたげな口を封じるように、キスをする。和樹が「んっ。」とくぐもった声を出す。キスを続けながら、股間の手は益々強くそこを触ってくる。これが電車の痴漢なら、もう周囲の人間も気が付くことだろう……そんな妙な妄想がよぎった瞬間に、キスは終わり、お尻に何かが押し当てられた。考えるまでもない。涼矢が自分のそれを押しつけているのだ。「痴漢みたい。」と和樹は呟いた。冗談めかして言ったつもりなのに、声がかすれた。これじゃまるで本当にそんなシチュエーションに昂奮しているかのようだ。そう思ったと同時に、ズボンのファスナーが下げられて、涼矢の手が入ってきた。「やっ。」一瞬、本物の痴漢に遭ったような気がして怖くなる。 「声出したら、他の人にも聞こえちゃうよ?」さっきの和樹の呟きに悪乗りして、涼矢が囁いた。和樹は、そんなはずがないことは分かりきっているのに、反射的にぐっと口をつぐみ、声を漏らすまいとした。 「パンツ、もう濡れてるけど。気持ち良かった?」涼矢にまた耳元で囁かれ、ますます口を堅く結んだ。 「このままだとズボン汚しそう。嫌だったら、自分で脱いで。」涼矢は小声のまま指示を出す。和樹はベルトを緩め、ズボンに手を掛け、下ろそうとした。膝まで行かない内に、腕を掴まれ「そこでストップ。」と制止させられた。そして、今度は涼矢がパンツをずり下げた。ズボンと同様、太腿あたりまでだ。 「やだ、こんな。」あからさまに「そこ」だけを露出させられている自分を想像すると、ひどく恥ずかしい。自分だけ状況が見えない分、尚更だ。 「そう?」涼矢は再び和樹のお尻に自分の股間を押しつけた。だが、和樹のほうは直接のはむきだしの肌だ。押し当てられた生地の感触で、涼矢はまだ部屋着を身に着けているのが分かる。――つまり。  つまり、自分だけが目隠しされて、自分だけがシャツをはだけさせ、自分だけがズボンとパンツをずり下げて、ペニスと尻を曝け出している。それを涼矢はあますところなく見ているというわけだ。  目隠しを取れ。いっそ全裸にしてくれ。おまえも脱げ。  いくつかの要望が和樹の胸の内に湧き上がるが、口に出せなかった。そんなことを言ったら、今自分のペニスをしごいている涼矢の手が止まってしまう。挿入を焦らされてしまう。和樹は後ろ手で涼矢のそこを探した。服の上からでも硬くなっているのは分かる。 「これが欲しい?」と耳にキスをしながら涼矢が囁く。和樹はコクコクと頷いた。「もう、いいの? もっとゆっくり……。」  涼矢の言葉を遮るように和樹が言った。「いい。早く。」和樹は涼矢のズボンのウエストを手探りで探す。それを引きずり下ろしてやりたいと思う。だが、結局は涼矢は自分でそれを脱いだらしいのを気配で感じる。時折「生」の感触が、ぴたぴたと自分の臀部を走る。  涼矢のそれが欲しくて腰が動いてしまう。なのに、涼矢はそこまでしておきながら和樹から離れた。妙なタイミングで暗闇に放置されて、和樹は茫然とした。「涼、どこ。何してんの。」その声もまたかすれて、なんとも情けなく響く。

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