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第606話 adolescence : moratorium (6)
涼矢はすぐに戻ってきた。「おまえもつけたほうがいいな。」と言われたかと思うと、涼矢の手が和樹のペニスをつかみ、コンドームを装着した。さっきの間 は、涼矢がコンドームをつけていたためだとようやく理解する。その間のせいで若干萎えた和樹のペニスを、涼矢はしごいた。
「あっ……あんっ。」和樹が喘ぎ出す。一度声を出すともう止められなかった。涼矢がアナルに指を挿入してきたから、尚更だ。どうせなら猿轡までしてくれたらよかった、などと思う。「あっ、あっ……。」だめだ、そんなこと言ったらパンツを口につっこんでくるような奴だ、と頭の片隅で思う。やがて指が離れ、もっと太くて、熱いものが押し付けられる。『挿れていい?』と確認されると思っていたのに、何の確認も予告もなしに、それが入ってきた。「んあっ。」と声が出る。急に腰をつかまれ、涼矢のほうへとひっぱられる。バランスをとるにはお尻を突き出すようにせねばならなかった。いつもならじりじりと速度を上げていく涼矢が、いきなり激しく突いてくる。「あ、やあっ、涼、はげしっ……。」それでも痛くはない。涼矢の性急さが「求められていること」の証のようで、それは快感と直結している。「いい、気持ちいっ……。」
そう口走った瞬間に、和樹の視界が明るくなった。外されたネクタイはぞんざいに足元に落とされた。慣れない明るさに目をしばたかせている間も、涼矢は容赦なく攻めてきた。
目の前はカーテンだった。ぼやけていた視界も徐々にはっきりしてきて、カーテンのS字の蔦の織り柄もはっきり見えた。快感に溺れているはずなのに、その片隅で、このカーテン、こんな柄だったっけ、と思う。思ってから、そう思うのは今が初めてじゃないことを思い出す。そんな風にまじまじとカーテンを見ることなんかないのに、何故だろう……。
「集中してよ。」という涼矢の声で我に返る。
「急に、眩しくて。」ととっさに言い訳した。
「俺のことだけ、考えて。」涼矢は和樹の首の付け根のあたりに歯を立てた。
「痛 っ……。」
涼矢のことばかり考えてる。いつだって。そう言いたい気持ちにかられる。
「好きだよ。」涼矢が言った。
「ん。」和樹は振り向いて、涼矢に口づけた。「好き。」
涼矢が激しい動きを再開したから、うっとり見つめ合うような時間はそうなかった。和樹は自分の腕を見て、まだシャツを着ていることを思い出した。視線を下げれば、ズボンだって辛うじて穿いている。知ってはいたが、目の当たりにすれば随分と無様な格好をしている。
繋がっているところだけをお互いに曝け出して、前戯もろくにないまま激しく貫かれて。足に引っかかるスーツのズボンを見て、オフィスのトイレか何かで、人目を盗んでセックスしてるみたいだと思う。「くっ……んんっ。」慌ただしい、性欲処理でしかないセックス。好きだと言い合ったばかりの涼矢を相手に、自分の部屋で愛し合っているのに、そんな風に全然違うことをしている気になるのは、スーツなんか着せられているせいだろうか。「ああっ、涼、いい、気持ちいいっ、あっ、そこっ……。」必要以上に声を抑えてしまうのもスーツのせいだ。こんなところでこんなことをしてるのを誰かに見られたらまずい……ありえない想像のせいでやけに昂ぶった。
「ど、したの、急に。」涼矢も余裕はなさそうで、息を吐きながら聞く。
「早く、イキた……。」自分から腰を振り、和樹が言った。
「イキたいの?」
「ん。」
だが、和樹の言葉とは反対に、涼矢の動きがペースダウンした。物足りない快感を埋め合わせたくて、和樹は自分の手を股間に持って行こうとする。その手を涼矢はつかんで、さらにもう片方の手もつかむと、後ろ手にさせ、押さえつけた。その和樹の腕を手綱のようにして、涼矢が和樹の中に入っていく。
「ああっ。」和樹がのけぞる。
「逃げないで。痛い?」
和樹は首を横に振り、涼矢が挿入しやすいように腰を上げた。「あんっ。あっ、い、ああ、んっ。」
「気持ちいい?」
「ん、気持ちいい……。」
「もっと?」
「ん。」涼矢の動きがやっと速くなる。焦らされた分、一気に上り詰めた。「あ、涼、イキそ……。」
「イクの?」
「ん、イク、あ、無理、も、イクッ。」
和樹が絶頂を迎えても、涼矢は動きを止めなかった。和樹の快感もまたぞろ下半身からせりあがってくる。しばらくのピストン運動の後に涼矢が低く喘いで射精すると、一度は果てたはずの和樹の先端からも再び放出する。
「またイッたの?」和樹の動きからそれを察したのか、涼矢はそう囁き、それからペニスを抜いた。和樹は腰が抜けたようにその場にへたり込んだ。
コンドームを処理しながら、涼矢は、「せっかく汚さないようにしたんだから、しゃがみこむなよ。」と笑った。
「るせ。」小さくそう言い返すのが精一杯だった。力が入らない。和樹も、へたり込んだまま、二度の射精を受けたコンドームを注意深く外した。
「ほら。」涼矢が手を貸して、和樹を立ち上がらせた。
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