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第622話 Dear friends (3)
「写真あるだろ? 見せてあげなよ。」と哲が言った。
「やだよ。」
「じゃあ、俺が隠し撮りしたやつ見せちゃうよ?」
「は?」
どうせハッタリだろうと思いながらも、絶対にそんなことをしないとも断言できず、涼矢は渋々スマホを操作し、無難そうな画像を探した。普段は写真と言ったらメモ代わりに撮るぐらいで、人物が映っているとしたらほぼ和樹関連の写真だ。
ゴールデンウィークは写真を撮らなかったから、最初に出てきたのは、年末に行ったPランドだ。観覧車に乗る時に業者が撮ったツーショット。その場でも記念フレームつきのプリント写真を買ったが、データもダウンロードしてあった。だが、その写真の自分の顔は、今見るとニヤけ過ぎていて恥ずかしい。涼矢は和樹1人が映っている写真を探した。
「今ので良いじゃん。」いつの間にか画面を覗き込んでいた哲が言った。涼矢は指を逆方向に動かして、観覧車の写真に戻る。「そう、それ。すげえ良い写真。」
「俺がアホ面過ぎる。」
「バカップルっぽくていいよ。」
「……別の探す。」
「嘘嘘、幸せそうでいい。」
「気になる。」と千佳が前のめりになった。「早く見せてよ。」
涼矢は観念したようにテーブルの中央にスマホを置いた。すかさず千佳がそれを手にする。「うっわ、イケメン。」
響子が顔を寄せると、千佳は響子に見やすいように画面の角度を変える。「本当。格好いいね。」
「はい、おしまい。返して。」涼矢は手を伸ばした。
「涼矢くんもいい笑顔。」千佳は返す素振りもしない。2本の指の動きからすると、拡大しているらしい。
「俺の顔は見なくていいだろ。」
「涼矢くんのほうから肩組んでるじゃない。仲良さそう。」響子が言った。
「返してって。」涼矢はうつむいて手だけ更に伸ばした。
「すげえ赤くなってる。こんな田崎見んの初めて。いやぁ、あっち行く前にいいもん見られた。」哲がそう言って冷やかす。
千佳はようやくスマホを返し、涼矢はそれをすぐにポケットにしまいこんだ。
「いいなぁ、イケメン彼氏。」と千佳が何か空想するように中空を眺めて言った。
「でも、千佳の趣味ってああいうタイプじゃないでしょ?」と響子が言った。「千佳はほら、男らしい男の人、そんなに好きじゃないじゃない? どっちかって言うと、儚げな感じの男の子が好きよね。」
高校の頃は同性の響子に恋愛感情を抱いていたのだと、千佳自身から聞いた。そして、大学に入ってから好きになったのは哲だと。哲が「儚げな男の子」かどうかはともかくとして、その哲には告白して、既に振られている。更に哲は俺に告白してきた……。
そんな「当事者」がこの場に揃ってしまったわけだけれど、響子と哲はどこまでそれを知っているのだろう、と涼矢は考える。少なくとも響子はそのどちらも知らないのだろうと思う。そうでなければ、この席でこんな発言ができるはずがない。
涼矢は千佳の様子をうかがったが、特に動じる様子もなく「私の好みじゃないけど、イケメンはイケメンで、やっぱりいいなぁって思うよ。」と言った。
響子はその言葉にうんうんと頷いた後、「モテそうね、彼氏。」と言った。
「……まぁ。」涼矢はどう答えればいいのか戸惑う。
「それでよく遠距離なんかやってられるよなあ。俺、無理。」
「私も近くにいてくれる人じゃないと嫌だなぁ。身も心も重い女なのよ、私。」と響子は笑いながら言った。その言葉を裏付けるように、響子は毎日のように彼氏と会っている。「でも、だからこそ、離れていても信じあえる関係っていうのは憧れるわ。」
「信じあえてるの?」試すような表情を涼矢に向けて、哲が言った。
「どうなのかな。」ニコリともせずに涼矢が言ったので、千佳と響子は少し困った顔をした。
「バカップルのくせに。そこは『当然だ』って返せよ。」哲が笑ってそう言い、そのおかげで場が再び和む。
しかし、せっかく和らいだ空気の中、涼矢は言った。「信じてるけど、そう単純なもんでもないよね。努力して、信じてるよ。余計なことは考えるな、って自分に言い聞かせて。あっちがどうなのかは知らないけど。」
「おまえ、余計なことばっか考えるもんな。」
「うん。」苦笑する涼矢に、千佳と響子は逆に安堵したように笑った。
「哲ちゃんが考えなさすぎなの。」千佳が言う。
「そ。頭が良すぎるのかもね。」響子が言う。「好きな人がいて、その人とつきあっていくっていうのはねぇ、いろいろ思い悩んで当然なんだから。」
「響子も思い悩んでる?」
「そうよ。でも、苦しいばっかりじゃないけどね。誕生日プレゼント、何がいいかなぁって考えるのって、すっごく悩むけど、楽しいじゃない?」
「なーんだ、響子の悩みはノロケだな。」哲はそう言い放ち、スプーンを無意識に振り回した。カレーライスに突っ込まれていたスプーンからルゥが跳ね、向かいの響子の白いブラウスにシミを作った。「あ、悪い。ごめん。」
「え、なになに?」当の響子はそのことに気付いていないようだ。
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