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第634話 phone call (3)
その後はポン太の送迎についてのことを少し話して、電話を切った。
涼矢がなにげなく画面を見ると、メッセージの着信を示すマークが出ている。開けてみるとエミリからだった。
[HAPPY BIRTHDAY!!!]
カラフルな文字が飛び込んできた。その後もいくつものおめでとうスタンプが続く。時刻を見ると30分ほど前には届いていたようだ。和樹とそんなに話し込んでいたか、と思う。
[ありがとう]
それだけの返事をした。エミリからすぐに返信が来る。
[和樹と話してた?]
[うん]
[プレゼントは? 会った時かな?]
[送ってきた。新しいピアス]
[あ~ いいね~]
うさぎが悶え転がっているスタンプが届く。涼矢が返事を考えているうちに次のメッセージが飛んできた。
[ねーねー 和樹の秘密 いっこ教えてあげようか]
[秘密?]
[和樹ねー 女の子にも誕プレ買ったんだよ~]
[なんで]
[女の子がどういうの喜ぶか分からないからって 買い物つきあわされたんだよ 私が]
理由を尋ねたのに、返事になっていない返事が来た。
[サークルの人かな]
[さあね?(笑) やっぱり涼矢にはナイショだったんだー 悪いことしちゃったかなー]
明らかに面白がっている様子だ。
[何買ったの]
[和樹に聞いたら?]
[別にいいよ]
深刻な話なら、エミリがこんな言い方をするはずがない。だから、「別にいい」は本心だったのだが、エミリはその無愛想な返事を涼矢の苛立ちととらえたようだ。
[怒った? ごめーん 教えるね][中学生だって][塾の生徒][誕プレもらったからお返しって]
[あー]
[だから安心して][指輪でも花束でもピアスでもないから]
[(笑)]
[和樹は涼矢LOVEだから大丈夫!]
ハートマークを散りばめてそんなことまで言ってくる。
[うん]
[うん だって][かなわんなー][リア充め]
エミリの返信が立て続けに来る。スタンプも絵文字も満載で。恐るべき入力スピードだと感心しているうちにまたメッセージが届く。
[また和樹からラブコールでも来てたら悪いから そろそろ落ちるわ]
[ないって。和樹まだ試験中だし。でももう遅いしね。おやすみ]
[おやすみ~]
涼矢はスマホを充電器に置くと。ベッドに寝そべった。無意識に耳に手をやり、ピアスに触れる。――あいつ、そんなこと一言も言ってなかったな。教え子の女の子に誕プレ買ったことも、それをエミリと買いに行ったことも。
それがどうということもないが、やはりモヤモヤした。そして、教え子というキーワードから、明生を思い出した。連絡先を教えてやったけれど、結局一度もコンタクトはなかった。でも、和樹からも特別何か起きたという話も聞いていないから、きっと大丈夫なのだろう。
一方の和樹はと言えば、翌日の日曜日は大学が休みで試験もないが、その先の月曜・火曜と重要な科目が残っていた。そして、本来なら試験勉強にあてるべき貴重な日曜日は、塾の実力テストの日で、和樹は試験監督としてシフトに入れられていた。採点はコンピューターでテスト業者のほうで行うから、不正行為がないかをチェックするのが主な仕事だ。といっても1クラス20人程度で、見回るのはさほど大変ではない。塾内のミニテストは採点業務があるし、授業なら教案の準備等が必要だが、そういった作業がない分、負荷は少ない。だから、いつもなら、こういった試験監督がシフトに入ってると、「ちょっぴり美味しい」と感じていた和樹だった。
でも、この日はいささか気分が違った。自分の試験勉強が気がかりなのももちろんだが、ミッションがある。菜月に誕生日プレゼントを渡すのだ。
2月の自分の誕生日、手作りだと言って渡されたバレンタインチョコをつっかえすことはできず、受け取った。これは誕プレであってバレンタインではない、ホワイトデーのお返しは期待するななどと詭弁を使いつつ、釘をさしたものの、女の子から何かもらっておいて、何もしないというのはどうにも落ち着かなかった。しかも、涼矢の誕生日の翌日とあってはうっかり忘れるということもない。
困った和樹は、少し前にエミリに相談した。エミリは、数百円のちょっとしたものをあげたらどうかと言い、その勢いで一緒に買い物に行くことになった。エミリが選んだのは人気キャラクターのついたペンだった。
「その子の趣味に合わなかったらごめんね。」
お礼がてら2人でカフェでお茶を飲んでいると、エミリが言った。
「でもこれ、中高生の女の子に人気なんだろ?」
「そうだけど、難しいのよ。キャラクターグッズは嫌いって子もいるし、メルヘンチックなのが好きな子もいれば、男の子が見るようなアニメのキャラが好きな子もいるし。今は趣味がいろいろ細かく分かれてるから。」
「だったらミッキーマウスとかキティちゃんのほうが無難だったんじゃない?」
「それも人それぞれ。逆にメジャーだから絶対やだって子もいるから。私もディズニーキャラは好きだけど、キティちゃんはあんまり、だもの。私が選んだそれ、一応キャラクターではあるけど、そのキャラ知らなくても普通に可愛いでしょ。」
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