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第665話 泡沫 -うたかた- (9)

 和樹がひるんだ隙に、涼矢は和樹を押しのけて、体を起こす。ベッドの下に降りて、和樹をベッドの端に腰掛けるように促すと、ためらうことなく、その中心に手を伸ばした。さっきとは立場が逆だ。 「全裸(まっぱ)で来ると思ったのに。」涼矢が和樹に着替えを準備してやらなかったのはわざとだった。だが、風呂上がりの和樹は、着てきた服をもう一度身に着けて現れた。 「だっていつ帰ってくるか分かんないし。やだよ、またあんな気まずい思いすんの。」和樹が言っているのは、パンツ一丁姿を佐江子に目撃された日のことだ。涼矢はそれには返事もせずに、和樹のチノパンのファスナーを下ろし、下着の上からそこをまさぐった。「あ、脱ぐから。」和樹が腰を浮かして、パンツごとチノパンに手をかける。 「ズボンだけ脱いで。」涼矢は床に膝立ちの状態で、和樹の足の間から和樹のことを見上げて言う。その要求の意図は分からないが、和樹は言われた通りにパンツは残してズボンを脱いだ。再びさっきのようにベッドに浅く腰掛けると、涼矢がその足の間に、今度は手ではなく顏を入れて、下着の上からそこを咥えた。「んっ。」布越しの舌の熱さに、和樹はピクリと反応する。 「和樹の匂いがする。」と涼矢が言う。 「だから、パンツも脱ぐって。」着替えがなかったから、1日穿いていたパンツをまた穿くしかなかった。涼矢ほどそれに抵抗はないけれど、匂いのことなど指摘されれば、やはり恥ずかしい。 「んーん。」否定の声を出しながら、涼矢はまた舌での愛撫を再開した。久しぶりの刺激に、和樹のペニスはすぐに反応する。和樹の息も徐々に荒くなり、無意識に自分の手で口を押さえた。  涼矢の唾液で下着はぐっしょりと濡れた。いや、涼矢のせいばかりではなかった。今日の下着は黒だったから、濡れたところで色の変化は分かりにくいが、ぴったりと貼りついた布越しにも形が分かるほど、そこが盛り上がってきた。涼矢がウエスト部分を少し下ろしてやれば、下着から和樹の先端が飛び出た。涼矢は直接それを咥えた。 「あっ……。」反射的に身を引こうとする和樹。涼矢はその腰を押さえつけて、逆にもっと自分のほうにつきださせるようにした。だが、涼矢の口淫は、舌先でちろちろと舐める、あるいはせいぜい半分ばかりを口の中に含むだけで、焦れったい。もっと股を広げて、涼矢をそこに押しつけたい衝動に駆られるけれど、下着はずらされただけでまだ穿いているから、それもできない。「涼、もっと……奥まで……。」  涼矢は勝ち誇ったかのように笑みを浮かべて、ようやく和樹のパンツを取り払った。かと思うと、和樹の膝裏に手を差し入れて、そのまま持ち上げるものだから、和樹の上半身はベッドの上に転がされた。腰から下は涼矢に委ねる形になる。涼矢は更に和樹の足を持ち上げて、露わになったアナルに舌を挿れ始めた。 「うわ、ちょっ……それ、だめ。」和樹は抵抗したが、声だけだ。 「奥まで、してあげる。」一瞬顔を上げた涼矢は、それだけ言うと、和樹の太腿の内側に幾度かのキスをして、それからまたアナルを舐めはじめた。 「や、あっ……涼、そこ、だめだ、からっ……。」だめなはずがない。ビクビクと体を震わせて悦んでいる。涼矢は和樹の手を取り、その手に和樹自身のペニスを握らせた。「無理、両方したら、すぐ……。」その言葉もむなしく、和樹の手には涼矢の手まで添えられて、2人分の刺激を受けることになった。それとアナルとで、和樹は否が応にも激しく喘がされる。「やだ、涼、イク、まだやだ、イキたくな……。」和樹の懇願を無視して、涼矢の舌が奥まで這い上がってくる。和樹は、舌がこんなところにまで侵入できるのかと驚くが、それだけ自分のそこが拡げられているのだと気付いた時、猛烈な恥ずかしさがこみあげてきて、それと同時に達した。「馬鹿、おまえが、やめてくんないから……。」和樹は半泣きでそんなことを訴えた。 「だって1回出しておかないと、もたないだろ?」計算通りだとでも言いた気な口ぶりで涼矢が言う。和樹から離れて、ティッシュボックスを手にすぐ戻ってきた。放出したものは、ほぼ和樹自身の手の中だ。和樹はティッシュでそれを拭う。  涼矢は間を空けずに、今度は自分の手にローションを取り、指を使い始めた。 「やだって、今、イッたばかり……!」身をよじらせる和樹の肩を押さえる。力尽くではなかったが、和樹はすぐにおとなしくなった。「んっ。」和樹が早速その刺激に身悶える。指が2本に増やされる。「あっ、あっ……やだ、そこ。」 「やじゃないでしょ。」指を和樹の中に出し入れしながら、涼矢は和樹の腹や胸にキスをする。 「やじゃない、けど、やだ……。」目が合うのが恥ずかしくて、和樹は自分の腕で目を覆う。 「顔、見せて。」だが、非情にも涼矢はその腕を取り払った。頬を紅潮させ、荒く息を吐く和樹の顔が見えた。「可愛い。」と思わず呟く。

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