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第686話 重ねる時間 (13)
涼矢の右手は和樹の右手ごと股間を握り、左手はそれ以外の部分を這っている。脇腹。内腿。そのまま際どいところに来るかと思えば、肩から上腕をさするように撫でたりもする。そして今は乳首を刺激し始めた。「あんっ。」と声が出る。更に耳裏に熱い息がかかり、耳たぶを唇でついばまれる。目を開けていたって背後の涼矢が見えないことには変わりはないが、強制的に視界を遮断されていると思えば、より一層「予想外」の動きに感じられてしまう。
「涼矢。」和樹は後ろを振り向く。そこに涼矢がいるのは分かっているけれど、どうしてだか不安で、確かめたくなって「キス。」とねだった。
涼矢はすぐにキスしてきた。「可愛いね。」そう言って、もう一度キス。今度は舌をからめあう、濃厚なキス。
その間も股間の手は止まらない。キスで塞がれた口から、和樹の呻くような喘ぎ声が漏れる。
長いキスが終わると同時に、「あ、だめ。」和樹は左手で右手を覆う涼矢の手を外そうとした。
「イキそ?」
「ん。」
「いいよ、イッて。」
涼矢はそう言うが、和樹は無理やり手を剥がす。「最短距離で、出すだけじゃ、つまんねん、だろ?」平気そうに言ってやりたかったのに、息がまだ整わない。
「そう言ったんだっけね、俺が。」涼矢の手がペニスから離れた。すると今度は、和樹のアイマスクをずらした。「でもほら、苦しそう。」
暗闇が急に明るくなって、和樹は目をしばたかせる。目が慣れると自分の股間の屹立が見えて、反射的に目をそらした。
「口でしていい?」涼矢が言う。
「おまえ、ほんとそれ、好きだな。」
涼矢は和樹の前に回る。少し思案して、ベッドから下りた。「ここ、座って。そのほうがやりやすい。」
和樹はベッドの端に移動して、足を床に下ろす。その足の間に涼矢が入ってくる。「あ。」涼矢は小さくそう言うと、中腰になって、再び和樹のアイマスクをずらした。
「え、またやんの。」
「そのほうが集中するだろ。」
集中はするだろうけれど、それと、涼矢が咥えている姿を見るのと、どちらが昂奮するだろう。和樹自身もそれが知りたくて、アイマスクは外さなかった。
――しかもこいつ、だんだん上手くなってるし。
最初はたどたどしかった涼矢の舌技。やり方を教えたのは和樹だ。元カノにされて気持ちよかったことを、そっくり涼矢にしてみせた。
――涼矢は当然フェラなんて初めてだっただろうけど、俺だって他人のチンコを咥えたのはあれが初めてだ。
あの時、さほど抵抗感がないことに自分でも驚いた和樹だった。快感に喘ぐ涼矢を見て、もっとしてやりたいとさえ思った。もっと気持ちよくさせたいというだけではなく、涼矢の「他の顔」が見たくなったのだ。同じ部活で、同じクラスで、そこそこ「良く知っている奴」だと思っていた。でも、告白されて、思い知った。俺は涼矢のことなんか何ひとつ知らなかったと。そんな涼矢の、「ほんとうの顔」を引きずり出したかった。やがてそれは「俺にだけ見せる顔」にもなった。恥じらう顔。恍惚の顔。挑発する顔。他の誰にも見せない涼矢の顔が見たかった。
――でも、こんなんされてたら、何も見えねえ。
暗闇の中で和樹は思った。でも、想像はできる。今はきっと、そっと窺うように上目遣いで俺を見てる。喉の奥まで使う時には、頬がこけたようにすぼまる。舌先でちろちろ舐める時には薄笑いを浮かべて煽る。
「あ、涼、ちょ……もっと、ゆっくり。」
「ん。」涼矢は素直にスピードをゆるめた。その時、和樹は気づいた。根元に添えられた手はひとつだ。そう思って耳を澄ませると、かすかにリズミカルな音がする。
「涼、おまえ、自分のしごいてるだろ?」
「ん? ん。」咥えたまま返事をした。
「やらし。」
涼矢の喉仏がくくっと動くのが伝わる。笑ったのかもしれない。和樹は膝の間隔を狭めて、涼矢の頭を両側から押さえつけた。さすがに涼矢が口を離す。
「挟むな。」
「まだ勃ってねえの?」
「ギンギンだろ。」涼矢は和樹のペニスを軽く握る。
「俺じゃねえよ、おまえが。」
「なに、挿れてほしくなっちゃった?」
「いちいち言うなって、そういうこと。」
「可愛くおねだりして。」
「なんでだよ。」
「ヤル気が出る。」
「バーカ。」和樹は狭めていた足を開く。手探りで涼矢を探して、頬に触れると両手で包むようにした。「早く中にちょうだい?」
「ヤル気出た。」
涼矢が立ち上がる気配がした。少し間が空いてガサゴソする音が聞こえてきた。コンドームをつけているのだろうと推測した。準備を終えたのか、和樹の腰を抱えた。その次には「いきなり」と言っていい唐突さで涼矢が中に入ってきた。
「あっ……!」と和樹がのけぞる。涼矢の表情は見えない。息が弾んでいるのは聞こえる。内側を貫いていくものは硬い。腰をつかむ手に力がこめられて痛いほどだ。見えない代わりにそれらで涼矢の昂ぶりを確かめて、和樹は安堵する。涼矢はただ抜き差しするだけではなくて、前立腺を抉るように上下にも動く。
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