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第687話 重ねる時間 (14)
――いつの間にそんなことまで覚えやがったんだ。
自分の感じるポイントを的確に刺激していく涼矢に、和樹は苛立ちさえ覚える。でも反撃をする余裕はない。快感に身をゆだねることしか考えられなかった。涼矢の背にひっかき傷がつきそうなほどしがみつく。「涼、いいっ、あっ……ああん……。」喘ぎ声も出すがままに任せる。口の端から唾液が垂れているのが分かった。今の自分は涼矢にどんなにだらしない顔をさらしているのだろう、と思う。でも、そんな羞恥心で勝手にキュッと締まるアナルに、涼矢が昂奮するのも分かった。それならいい。自分がどれほどみっともなくても、それで涼矢が快感を得られるなら。俺以外に見せない顔が見たい。涼矢もそう思ってくれているなら。
ひときわ大きく体を弓なりにする。足のつま先までピンと張る。「あ、イク、涼、もう、イク、から。」
「いいよ。」動きの激しさとは裏腹に優しい声が返ってくる。
自分の胸元に液体が飛んできたのを感じた。自分のほとばしらせた精液だ。そういえば涼矢はつけていたみたいだけど、自分はゴムをつけてもらってない。……そんなこと、今更どうだっていいけど。
「涼矢も。」和樹が促すと、いっとき止まっていた涼矢が再び動き出した。和樹は自分でアイマスクを外した。昼間だから照明はつけずとも明るい。目に飛び込んできた涼矢は逆光でシルエットだけが見えた。――どんな顔してんのか、見たかったのに。
目が慣れて表情まで見えるようになった頃には、涼矢はフィニッシュを迎えていた。ホッとしたような顔だ。挿入したまま和樹に微笑みかけて、頭を抱きかかえるようにして、キスをしてきた。「好きだよ。」
「うん。俺も。」
それから慎重にペニスを抜く。片手を伸ばしてティッシュを数枚取る。それは自分の後始末に使う様子で、和樹には箱ごと渡した。
「涼。」胸元の残滓を拭きながら、和樹が言う。
「ん?」
「足りない。」
涼矢がにっこり笑う。「うん。」ベッドの上に上がってくる。和樹はベッドの奥に移動して、涼矢のスペースを作る。
「涼矢も? 足りない?」
「うん。」
「本当に?」
「なんで疑うの?」涼矢は和樹の頬にキスをしながら、和樹の手を股間に持っていく。「すぐ復活するよ?」
「絶倫。」
「おまえに言われたくねえよ。」和樹の耳たぶを甘く噛む。
「馬鹿になりそう。」
「こんなことばっかやってたら?」
「うん。」
「大丈夫だよ。」涼矢は和樹のアナルに指を挿入する。
「んっ……。」
「和樹、馬鹿だもん。変わんないよ。」
「ひっでえ。」
「俺もだけど。俺のほうが馬鹿だ。」
「何言ってんの。そんなこと思ってねえくせに。」
「だって。」涼矢は和樹の頬に、唇にと、何度もキスを繰り返した。「和樹といると、和樹のことしか見えなくなるし。ずっとこうしていたくなるし。」
「俺だって。」
「嘘。」
「嘘じゃねえし。」
「和樹は俺よりずっと心が広いから。俺が和樹のことしか考えてない時でも、和樹はポン太のこととか哲のこととか、ひとのことばっか考えてる。」
「それは……イテッ、馬鹿、力強すぎ。」涼矢は和樹のペニスをぎゅっと握っていた。「おまえの……おまえのためだろ、あいつらのことは。おまえの友達とか、その弟とか、そういう奴だから。」
「そうだよ、知ってるよ。特にポン太なんか、俺が頼んだんだからな。」
「だろ?」
「分かってるよ。」涼矢は和樹のアナルからもペニスからも手を放して、和樹の体を抱きしめた。「だから嫌なんだ。」
「わけ分かんねえ。」
「和樹を独り占めしたい。俺のことだけ考えててほしい。」
和樹は涼矢を抱き返した。「そうしてるよ。いつも。涼矢のことばっか考えてる。涼矢が大事だから、あいつらも大事ってだけで。」
「でも嫌なんだ。」
「無茶言うなよ。」
「分かってる。」涼矢は和樹の髪に顔を埋める。「だから俺って馬鹿だなって。そう思う。しかも、和樹が本当に俺のことしか考えない奴だったら……俺は和樹のこと好きになれないと思う。」
「むちゃくちゃだ。」
「うん。」
「……心配すんなよ。好きだから。」
「うん。」
「大体、今は独占してるだろ? おまえしか見てないし、おまえのことしか考えてないよ。」
「うん。」
「大事にしろよ。こういうチャンスを。」
「それって。」
「そ、気が変わらないうちに続きしろって言ってんの。……可愛く言ってやろうか?」
「充分可愛い。」涼矢は和樹の額に口づけた。
「俺も見たいな、おまえの、可愛いとこ。」和樹は体を起こし、涼矢を仰向けに寝かせた。自分はその涼矢にまたがって、シックスナインの姿勢を取った。まだ硬くなりきっていない涼矢のペニスを頬張ると、涼矢も和樹のアナルに舌を伸ばした。「ひあっ。」と声が出たのは和樹のほうだった。からかわれるかと思ったけれど、涼矢もそこまでの余裕はないらしいことに安堵した。
どちらが馬鹿だといった会話を挟んだせいで、少々落ち着いてしまった2人だったが、そんな風に互いを刺激し合えばすぐに快感に没頭した。
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