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第688話 重ねる時間 (15)

 涼矢の先端から溢れてくる先走りまでも舐めとって、充分にいきり立ったそれを、和樹は最終確認のように撫でる。「ゴム。」と短く言うと、涼矢は手を伸ばしてコンドームを取り、和樹に渡した。和樹はそれを歯で開封して、中身を出すと、口を使っての装着に挑戦した。はじめのほうがうまくいって、最後だけ手を使った。 「器用だよね。」と足元のほうから――ベッドの方向で言えばそちらが頭側だけれども――涼矢の声が聞こえた。きっと、「意外と」と付け加えたかったことだろう、と和樹は思う。料理の時などに何度か言われた。よっぽどがさつで不器用に見えていたのかと思うと腹立たしい気もするが、つきあって初めて知る意外な一面なら、涼矢のほうが多いとも思う。たとえば、意外と独占欲が強くて、嫉妬深いこととか。 ――とっくにおまえのもんなのになあ。  和樹はそう思いながら、体の向きを変える。涼矢の上からは下りずに、騎乗位の体勢だ。涼矢の顔が見下ろせる。「可愛い顔、見せろよ?」和樹は涼矢のペニスを自分のそこに押し当て、ゆっくりと腰を沈ませていく。 「うわ。」と涼矢が小さく言った。 「何?」 「エロい。」  和樹はわざと身をくねらせる。「これでエロくなかったらどうすんだよ。」 「あ。」と涼矢が眉をしかめる。苦痛のせいではない。その反対だ。「やべ、気持ちい。動いていい?」  和樹はそれに返事をせずに、涼矢の手を取る。「ここも、触って。」その指先を乳首に当てた。  涼矢は両手で和樹の乳首をいじる。つまんで、こねて、軽く引っ張る。小さな突起が硬くとがってくる。「うあ……。んっ……。」和樹がとろんと溶けた表情になっていく。 「気持ちいいの?」と涼矢が言った。その声にしても上ずっていた。 「うん。……もっと強くして。」泣きそうな顔に似ているけれど、乱れる息と紅潮する頬、そして激しさを増す腰の動きで、そうではないと分かる。 「乳首でイクの?」 「分かんな……あっ、あんっ。」 「チンコ触ってないのに?」 「え……。」和樹は今それに気づいた様子で、ぼんやりと自分の股間を見た。涼矢の言うとおり、誰も触っていないのに、硬く勃起している。無意識に手を伸ばしたが、涼矢の手が乳首から離れて、その手首をつかんだ。 「だめ、触んな。」涼矢が下から突き上げた。 「ひっ。」と和樹が呻く。涼矢は手をつかんだまま、和樹のアナルにペニスを突き立て、かき回す。「や、激し……だめ、やだ……。」 「嫌じゃないくせに。」 「手、離して。」 「やだ。」和樹の手首をつかむ力が強くなる。 「じゃ、おまえが。」和樹は一瞬ためらったものの、ぽつりと続きを言った。「触って、ここ。も、痛えんだよ。」 「出せばいい。」 「やれって。」  返事の代わりに、涼矢がまた突き上げる。和樹の体がビクンをのけぞった。 「馬鹿、早く……。」 「ケツでイケるだろ。」 「ふざけ……んな。」 「ふざけてない。」涼矢は和樹から手を離し、代わりに腰を抱く。「ほら。」 「あっ……。」 「好きに、動いて、い、から。」涼矢の声も乱れた。 「や、ああっ……」和樹は手が自由になってもペニスには触らずに、腰を動かしていた。無意識だった。自分の動きと、涼矢の動きが相乗効果で自分の奥を刺激した。「やだ、も、馬鹿……。」 「よくない?」  和樹は否定の意味で首を振る。 「イキそう?」  それには数回頷いた。唇をかみしめて、声を我慢しているようだ。 「イク時はイクって言って?」 「いま。」 「え?」 「今、イキそ。」  涼矢は和樹の手首をまたつかんだ。「もうちょっとだけ。俺も、もうすぐだから。」 「だめ、むり、も、イク、あっ……は、あ……。」 「一緒に……今、俺も……イク、から。……んっ。」 「あっ、あっ……イクッ。」  ほぼ同時に2人で果てると、和樹は肩で息をしながら、涼矢のペニスを抜いた。そのままごろりと倒れこむように横になる。まだ息が整わない。目をつぶり、額に手を当て、ふう、と大きく息を吐いた。「やっべえ。」  和樹が横たわるのとは逆に、涼矢は体を起こし、コンドームの事後処理をした。和樹の吐息を聞いて振り向く。「どうした?」 「すっげ、気持ちよかった。」  涼矢は照れくさそうに笑って、使用済みのコンドームを捨てに行く。すぐにベッドに戻ってくると、和樹の横に仰向けになった。「俺も。」そう言って、和樹の肩にキスをした。和樹がくすぐったそうにして、涼矢に背を向ける。涼矢はそんな和樹を背中側からハグした。  少しの間をおいてから、「うん。」と和樹が言った。 「え? 何が?」 「今、おまえ、俺のこと大好きって言っただろ?」 「言ってないよ。」 「聞こえた。」  涼矢はクスクスと笑い、和樹のうなじに口づけた。「言ったかも。声には出してないけど。」 「ついにおまえ、テレパシーまで使えるようになったか。」和樹も涼矢の腕の中で笑う。 「そうだね。使えてもおかしくない。」涼矢は和樹の首筋に、肩に、と何度も軽いキスを繰り返した。 「俺のこと、好き過ぎんだろ。」 「嫌? 重い?」本気ではないと分かる、明るい声で涼矢が言う。  和樹は体を半回転させて、涼矢と向き合うと、涼矢の胸に額をこすりつけるようにして甘えた。「重いよ。でも、嫌じゃない。重いからいい。」  涼矢は微笑んで、今度は正面から、和樹を抱きしめた。

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