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第690話 重ねる時間 (17)

「別に、関係ねえし。」  反抗期の少年のような言い方に、涼矢は思わず笑ってしまう。「思い出しちゃったんだろ、あの時の。」涼矢は背後から和樹の肩甲骨にキスをする。 「うるさいよ。」 「あの時の和樹、エッチだったもんねえ。」 「黙れって。」 「もう一度、洗面所でヤル?」肩越しに顔を出して、言う。 「いいって。そんな気分じゃない。」 「そうかな。」涼矢は和樹のペニスを握る。「ここだったら中出しでもすぐに洗えるね。」 「触んなってば。」 「触ってほしそうだけど。」涼矢の手の中のペニスは急激に硬くなっていたし、口では反論しても、涼矢の手を拒まない和樹だ。「気持ちいいならそう言って。」 「……言うかよ。」 「さっきはすごい素直だったのに。」涼矢は手を筒状にして、ペニスをしごく。 「あ。」と声が漏れて、和樹はとっさに腰を引いて涼矢の手を避けようとしたが、涼矢はそれを許さない。さっきより強く左手で和樹の腰をホールドして固定する。そして、ペニスを握る右手をお尻のほうに移動させた。 「こっちがいいんだ?」 「ちがっ……!」 「だってお尻突き出してるし。」 「してねえよ、馬鹿、離せよ。」  涼矢はピタリと止まる。それから吐息をついた。「言葉が悪いなあ。」 「うっせえよ、いいから出ろよ。俺1人で適当にやるから。」  涼矢は和樹の手首を握り、二階からバスルームに向かった時と同じように、強引な力で和樹を引っ張った。 「なんだよ、こら、床、濡れるし。」2人ともびしゃびしゃのままバスルームを出た。 「珪藻土だからすぐ乾く。」 「そういう問題じゃねえだろ。」  涼矢は無言でバスタオルを出して、和樹の体を拭いた。 「いや、ちょっとまだ。」まだ肩からお湯をかけただけだ。 「うん、まだだね。」涼矢は和樹の尻の谷間に手を伸ばす。「まだ、ぬるぬるしてる。」 「やめ。」和樹はその手を軽くはたいた。 「まだぬるぬるしてるし、まだ勃ってるし。」 「それは今おまえが。」 「うん、俺もまだ、治まってないみたい。」涼矢は後ろから羽交い絞めするように和樹を抱いた。その言葉を裏付けるように、涼矢のペニスが硬くなり、和樹の尻に当たる。 ――それならそれで、なんでわざわざこっちに。  和樹は顔が上げられなくなっていた。上げたら何が見えるか分かり切っていた。鏡に映る、涼矢に押さえつけられている自分の裸体。そして。 「顔、上げて。そのためにこっち来たんだから。」涼矢が和樹の顎を無理やり上げる。それでもなんとか視線を横に外す和樹に、涼矢は容赦なく言い放った。「鏡があるほうが好きなんだよね?」 「ちがっ。」 「鏡探してただろ?」 「逆だ、馬鹿。」 「言葉が悪いってば。」涼矢の指が和樹の中に入ってくる。 「だ」だめ、と言いかけて言葉を飲み込む。見てしまったからだ。鏡に映る、期待している、自分の顔。 「ごめん。」と突然涼矢が言った。何を謝られているのか分からないうちに、指が抜かれた代わりにペニスが押し当てられ、嫌でも理解した。 「おま、いきなり……。」切羽詰まっているのはおまえのほうじゃないか。和樹はそう文句を言いたくなるけれど、そうとも言い切れないのは自分が一番分かっている。  そして、そう思った矢先に、涼矢が言う。「ごめん、俺が我慢できない。入れさせて?」  和樹が頷く。ずるい、と思う。力ずくの強引なやり方をしたと思えば羞恥を煽り、最後はこんな言い方をする。逃げられないに決まってる。  和樹は、洗面台に手をついて涼矢の挿入がしやすいように尻を突き出す。 「足、開いて。」と涼矢が言うので、足の幅を広げた。「もっと。」と言われたから、更に広げた。するとふいに、腿の内側に涼矢の手が入ってきた。「足、上げて。」 「なっ……!」 「ここに足、ついていいから。」洗面台の脇のスペースを指差す。それでは大股開きもいいところだ。「つながってるとこ、見たい。」 「や、やだよ。」 「お願い。」  涼矢にそんな風にストレートに言われたことはない。大抵は和樹がそれと求めるからだと言いくるめられる。和樹の好きにしていい、なんでもする。涼矢はそう言うけれど、結局、いつもいつも涼矢のしたいようにされる。……そして、いいようにイかされる。涼矢にされることは、いつも気持ちがいい。  和樹はおずおずと足を上げ始めた。涼矢がそれを補助するように持ち上げて、片足が高く上がる。片足立ちの不安定さを涼矢の手が支える。上げた足の先を、さっき涼矢が示した洗面台に置いてバランスを取る。  だが、そんなバランスなどすぐに崩された。涼矢が挿入を始めたからだ。和樹は片手も壁について、なんとかバランスを保つ……いや、そうではなかった。今、和樹を支えているのは壁に着いた手でも、洗面台に置いた足先でもない。自分の中を貫く涼矢だ。 「見える?」と囁かれた。もちろん、何が、とは聞かない。和樹は知らぬ間にきつくつぶっていた目を開けた。目の前の鏡は浴室内のものとは違って大きい。すべてが見えた。激しく喘ぐ自分の淫らな顔も、それを射抜くような目で見る涼矢の顔も、そして、その2人が接合している部分も。 「入ってる……。」口にして余計に恥ずかしくなった。

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