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第701話 The Gift of the Magi (1)
「涼矢くんとは高校の時からつきあってたの?」響子のおっとりとした雰囲気と柔らかい声質のせいか、不愉快には感じないものの、意外とズバズバと聞いてくる。
「いや、その頃はただの部活仲間ってだけで。卒業間際から。」
「それじゃすぐに離れ離れになっちゃったの? それでもずっと続いてるなんて素敵ね。」
「素敵?」和樹は笑った。「よく続いてるね」とは言われたことがある。でも、こんな風に憧れのまなざしで言われたことはない。
「だって信頼関係がなければできないことでしょう? 私は毎日のように会えないと、すぐ不安になっちゃうの。重いわよね。」
くすっと笑う口元を響子は右手で押さえる。その薬指に指輪が光っていた。
「つきあってる人、いるんだ?」
響子は恥ずかしそうに笑って頷いた。「ここの先輩なの。バイト先も同じでね、しょっちゅう会ってて、千佳に呆れられてるわ。」
すると千佳がくるりと振り向いた。「聞こえたよ。まったくもう、今日だって彼氏が実家に帰ってなかったら、彼氏を誘って来るつもりだったでしょ? 響子は彼氏命で、私はいっつも2番目なんだから。」
「だって、それはそうなっちゃうでしょ、ねえ?」と響子は和樹に同意を求めた。
「いや、別に俺は……。」和樹はしどろもどろになる。そうだとも、そんなことはないとも言えない。
「友情はすれ違っても取り返しがつくけど、愛情は取り返せないじゃない。」
「そうか?」涼矢と和樹は同時に言い、それを千佳と響子が笑った。
「ここでいいよね。」千佳が立ち止まった先には、一見しては普通の無愛想な建物があり、だが、その1階だけはガラス張りで、小洒落たレストランのような入口がある。どうやらここが目当ての学食らしい。
中はカフェテリア形式で、最初にトレイを取って、あとは流れに沿って好きなものを選んでいく。夏休みで、しかも2時近くになっていたから空いていると思いきや、部室代わりに利用しているような大人数の集団があちらこちらにあって、半分以上の席は埋まっていた。逆に言えば半分近くは空いていたから、席の確保には困らなそうだ。和樹は敵陣に乗り込むような気分になり、内心ひるみながらも、それを表情には出さないように努力した。
「好きなの取って行くの。基本的に一方通行で、取りそびれちゃうと並び直しになるから気を付けてね。」響子が和樹にレクチャーする。利用方法なら見れば分かるが、ありがとう、と一応返事をする。
ちょうど4人掛けのテーブルが空いたので、そこに座った。
「ここは涼しくていいわね。」と響子が言った。
「そうね。みんな考えることは同じね。」千佳が周りを見回した。「その上2号館の学食使えないから、今日は混んでるんだ。」
「これで混んでるの?」和樹は千佳に聞き返した。和樹の大学の学食なら、常にこれよりも混んでいる。学生数はこの大学よりも少ないはずだが、その分、学食の規模も小さいせいだろう。
「別の学食があってね、そこはいつも混んでる。でも今日は休みで。」
「2号館ね。そっちのほうが安くて量も多くて、いろんなメニューがあるのよね。私、久しぶりだわ、ここに来るの。」
千佳と響子が口々に説明してくれた。
「2号館のほうが近いしね。」と千佳が言い、あ、という顔で涼矢を見た。「でも、法学部からは遠いよね?」
「うん。」涼矢がようやく口を開く。
「わざわざ2号館まで来てたんだ。」
「ああ。」涼矢は持ってきた水を飲む。「だって安くて量も多くて、いろんなメニューがあるから。」さっきの千佳の言葉を真似して言った。
「スペシャルランチとかね。」千佳が笑った。「あのね、日替わりで、安くなるメニューがあるの。半額近くになるからすごくお得。つい頼んじゃうんだけど、ボリュームがすごくて、カツカレーなんて食べきれないぐらい。」
「そう? 普通だろ。」
「涼矢くんも哲ちゃんも大食いだもんね。」千佳は笑った。「そうそう、哲ちゃんに半分近く食べてもらったことある、カツカレー。きつねうどん食べた後なのに、ペロリと食べてびっくりしちゃった。」
「あいつはなんでも食う。」
和樹は、涼矢が自分の知らない相手と――それも女の子と――普通に会話している様子に違和感を覚えていた。更に哲の話題が出てくるとなると、どうにも落ち着かない気分になる。だが、涼矢が親しくしている友達だと思えば、ここで不機嫌な態度を取るべきではないと思う。笑顔でいようと努めるが、うまく笑えている自信はない。コミュニケーション能力は人一倍ある自負があったのに、そこに涼矢が絡むとこうも不器用になってしまうのか。和樹は自分の新たな一面を思い知った気がした。
「和樹くんは、哲ちゃんのこと知ってるんだっけ。」と響子が聞いてきた。
「ああ、うん。」和樹はそれだけ答えた。涼矢が彼女たちにどう説明していたか分からないから、どこまでが「無難な返事」なのかが分からない。
「東京で会った。哲も帰省してて。」と涼矢が言った。正しくは帰省ではない。倉田の家に転がり込んでいただけのはずだ。
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