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第703話 The Gift of the Magi (3)

 和樹はハンバーグを食べていた手を止めて、涼矢の横顔を見た。涼矢のセリフに、言外の意味など含まれていないことは分かっていた。けれど、それだけに「事実」なのだろうと思う。少なくとも涼矢にとっては「そう」なのだ。――涼矢だって、哲なんかどうでもいいと言いながらも、ちっともそんな扱いをしていないじゃないか。和樹はそんなことを思う。哲に対する、ある種の信頼。涼矢はそうと意識していないのだろうが、そういった感情があるのは間違いない。涼矢は、哲という人間そのものは信頼していなくても、哲の言葉と行動は信頼している。そんな気がしてならなかった。――でも、「哲本人」と、「その言動」って切り離せるものなのか? 「響子は昔から頭良いんだよ。」と千佳が言った。「英文科って、内部枠でも女子には一番人気でね、一般受験よりは楽だけど全員が希望通り入れるわけじゃないの。私はギリギリで入ったクチ。」 「そんなことないよ。」響子は笑った。 「そんなことあるって。」千佳が和樹のほうに向き直る。「とにかくね、私は基準ギリギリだったから、大学入ってからも周りについていけなくて、必死で勉強したんだ。でも、なかなか思うように進まなくて……。それで、響子に勉強のコツ聞いたら、小説でも映画でもいいからストーリー知ってる英語の作品を、原語のまま繰り返し読んだり見たりするといいよってアドバイスもらったんだ。」 「私、そんなこと言った?」 「言ったよ。忘れちゃったの?」 「忘れちゃった。」響子はバツが悪そうに笑った。「でも言ったかもね、私、そういうことよくやってたから。……あ、もしかして、それで『賢者の贈り物』だったの?」 「そうだよ。どういうのがいいかな、って聞いたら何冊か教えてくれて、その中に入ってた。話が短くてスラングが出てこないからいいよって。響子が言ったんだよ、もう!」千佳は本気でないことが分かる程度に口をとがらせながら言った。 「千佳の役に立ったのなら、我ながら良いアドバイスしてあげたのね。」 「忘れてたくせにぃ。」千佳が肘で響子の脇腹を軽く押し、2人で笑った。 ――可愛いよな、女の子は。  和樹はそう思い、そう思ったことを後ろめたく感じた。うっかり自分がニヤケた顔などしてなかったか、それを涼矢に気取られたりはしていないかと、隣の涼矢を窺い見る。すると、涼矢はばっちり和樹のほうを向いていて、目が合ってしまった。 「なに?」と涼矢が無愛想に言う。それが通常の無愛想さなのか、和樹の態度に気を悪くしたかの判別はつかなかった。 「いや、別に。……おまえも高校の頃から頭良かったよなって思っただけ。」適当な嘘で誤魔化した。 「そうよ、涼矢くんも哲ちゃんも本物の成績優秀者でしょ。こういう人を頭が良いって言うんだわ。」響子が言った。それから、「和樹くんはどこの大学行ってるの?」と聞いた。  その話の流れで言ったら、涼矢と同じ高校出身ならさぞかし賢い大学なのだろうという期待をされている気がする。「いや、俺はほんと、N大なんて志望できるレベルじゃなくてさ。」と前置きをつけてから、自分の通う大学名を言った。「そんな有名どころじゃないから知らないと思うけど。」 「知ってるよう、有名だよ。」と響子が言った。 「私も知ってる。」千佳も同意した。 「いいなあ、東京の大学。」 「いいよねえ。」 「就職で東京に出ようって思う?」と和樹が聞いた。 「うーん、どうかな。」響子が小首をかしげる。「千佳は?」 「私は、東京、憧れるけど、ずーっと住むのは想像つかないな。たまに遊びに行くぐらいがいいかも。」 「仕事だったら、私は東京より海外行っちゃいたいなあ。イギリスとか、アメリカとか、オーストラリアとか。」 「英語圏ね。」 「それしかできないもん。そう考えると哲ちゃんすごいよね。英語以外もマスターしちゃって。」 「日常会話程度とは言ってたけど。」千佳がさっきのスマホの画像をまた出して、和樹たちに見せた。「この子たちは、みんな留学生なんだって。いろんな国から来てるって。」それを裏付けるように、見た目も性別も様々な学生たちが写っていた。千佳がその次の写真を表示させる。「これは持ち寄りパーティー。哲ちゃんはおいなりさん作って持って行って好評だったみたいよ。」 「随分楽しそうだな。向こうの大学じゃレポート地獄だって言ってなかったか?」と和樹が言う。 「まだ語学スクールよ。地獄はこれからじゃない?」千佳が笑った。 「あそっか。大学始まったら、せいぜいしごかれればいい。」 「和樹くん、哲ちゃんと何かあったの?」響子が笑いながら言った。 「いーえ、別に。」和樹はチラリと涼矢を見た。 「あそっか、そういうことか。」今度は千佳が言う。「心配しなくても大丈夫よ。涼矢くん、和樹くん一途だもの。」 「やっぱり、離れてると、不安?」響子が心配そうに言う。  和樹と涼矢は顔を見合わせた。「どうだろうね。おまえ、不安?」和樹が涼矢に聞く。 「不安だよ。」顔色一つ変えずに涼矢が答えた。 「全然そうは見えない。」響子が言う。「涼矢くん、いつも堂々としてるもの。」

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