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第704話 The Gift of the Magi (4)

「してないよ。」涼矢は謙遜している風でもなく言う。 「こう見えても繊細なんですよ、この方。表情乏しいから分かりにくいよね。」和樹のほうがわざと茶化した言い方をした。 「余計なこと言うな。」涼矢がぼそりと釘を刺す。  そんな会話をしながらも、4人の食事が終盤に近付いてきた時、和樹の背後から声がした。「お、河合さんに依田さん。何してんの。」  反射的に振り返って見上げたが、他大生である和樹は、当然知らない顔――と思ったが、そうではなかった。 「え? あれ? 都倉?」和樹も驚いたが、相手もびっくりしている。その男は、高校時代の同級生だった。「つか、こっち田崎じゃね?」 「高村くん、都倉くんのこと知ってるの?」と千佳までも驚きの声を上げる。 「ああ。高校の同級生。2人とも。」高村と呼ばれた男は、和樹と涼矢の頭上を交互に指差す。 「高村、N大だったんだ?」と和樹が言った。 「おう。田崎もいるってのは聞いてたけど、学部違うから会ったことなかったな。つか、都倉は違うだろ。おまえ確か。」 「東京。」 「だろ? なんでまた。」言いかけて、高村は次の言葉を飲み込む。そうして一拍置いてから、再び話し出した。「……なんで河合さんたちといるんだ?」おそらくは千佳の名前を言おうとしたのではないのだ。和樹は高村が飲み込んだ言葉が想像できた。――こいつ、誰かから聞いて知ってるんだろう。俺と、涼矢のこと。それを思い出したんだ。 「涼矢くんと私たち、同じ講義取ってたことあって、グループワーク一緒にしたの。」と千佳が説明した。「高村くんは私たちと同じ英文科。」これは和樹に向けての説明だ。 「田崎はともかく、都倉は……。今、帰省中?」 「ああ。」 「そうか。」高村は立ち去ろうとせず、和樹と涼矢の顔を交互に見た。「揃いのピアスだな。」 「そうだよ。」と和樹が答えた。  高村が背後にいるせいで後ろ向きにしゃべっているから見えないが、千佳と響子が緊張しているのが気配で分かった。 「その噂、本当にそうなの?」と高村が言った。 「誰に何を聞いたか知らないけど、つきあってるよ。」 「へえ。……で、それ、河合さんも依田さんも知ってるんだ?」 「都倉くんに会うのは今日が初めてだけど。」と響子が答えた。 「田崎ってさ、あの、法学部の奴とつきあってたんじゃねえの。しょっちゅう英文のクラスに潜り込んでた。」  和樹はできる限り動揺しないように努めた。  それを援護するように「彼はただの友達。」と千佳が言った。 「都倉はただの友達じゃないんだ? 何、あれが元カレで、都倉が今カレ?」高村がニヤリとして、その顔には下卑た好奇心が浮かぶ。 「るせえな、おまえには関係ないだろ。」和樹は言い返す。言葉がどうしてもきつくなる。 「すげえ、俺、ホモって初めて見た。」高村が言った。 「てめっ。」和樹が立ち上がろうとするのを、涼矢が腕をつかんで止めた。 「初めてじゃないだろ?」と涼矢が高村に言った。「さっき言ってた法学の奴、自分からゲイだって言って回ってたし、おまえもあいつと直接そういう話してんだから、知ってるだろ?」 「はあ? 何の話だよ。」 「哲に相手にされなかったからって、こっちにやつあたりしてくんなって言ってるんだよ。」 「な、何を。」高村の顔が見る見る真っ赤になった。 「あいつ、聞いてもいないのに何でも俺に報告してくるんだ。誰と寝たとか、誰に声かけられたとか、でもつまんねえ男だから断ったとか、そういう話な。」 「あんな奴の言うこと、本気にすんじゃねえよ。」  涼矢はそれに返事をせずに、また元のように響子たちのほうを向き、食事の続きをした。高村はその背中に何か言いかけたがやめて、その代わりに和樹のほうを見た。さっきのような下卑た表情ではないものの、不満気ではある。 「久々に会えて嬉しかったよ。この次はもう少し友好的に声かけて。」和樹はそう言って、涼矢と同じように前を向いた。  涼矢と和樹にそれ以上の接触を拒絶されたことを悟り、腹が立ったのだろう。高村は小声で「キモ。」と呟き、立ち去ろうとした。 「高村くん!」千佳が少し大きな声を出した。「今の、ひどい。2人にちゃんと謝って。」 「何も言ってない。」 「言ったよ、聞こえたよ。」 「千佳、ちょっと周り見て。」響子が小声で千佳に言う。周囲の何人かが千佳の声に反応してこちらを見ていた。 「でも。」  言い合っている隙に高村はその場から消えた。 「ごめんね。」と千佳が言った。「高村の代わりのごめんと、大きな声出してごめんなさい、の、ごめん。」 「大丈夫、こっちこそごめん。」と和樹が千佳に笑いかけた。 「俺も、悪かった。」と涼矢も言った。それから、ふう、と息を吐いて、髪をかきあげた。「あんなの、高校にいたっけ?」  和樹は吹き出した。「今、それ言う?」  つられて響子と千佳も笑う。 「同じクラスになったことない。……たぶん。」 「あるってば。」和樹は更に笑った。「1年の時、タカムラでタサキでトクラの並びだっただろうが。まったく、全然覚えてない奴の割には、変な情報握ってたな?」  だが、涼矢は思案顔になり、黙ったままだ。

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