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第706話 The Gift of the Magi (6)
涼矢と和樹は照れてお互いそっぽを向くが、和やかな空気が戻ってきたのは間違いなかった。そんな中で千佳が言った。「蒸し返すようで悪いけど……哲ちゃんて、そんなに、いろいろな人と。……ううん、いろんな人とつきあってたのは知ってるの。バイト先の、すごく年上の人のことも聞いたし。でも、そういう……つきあうとか、そういうのじゃなくて、その、その場限りの人と、というのもあったの? 涼矢くんにも、ほかの人にも、しょっちゅうその手の冗談言ってたけど、それが本当になる相手もいたってこと?」
涼矢は横目でチラリと和樹を見た。その一瞬の視線で、さっき哲について千佳に話そうとしたのを責められているように感じた和樹は、「余計なこと言って悪かったね。」と、ぶっきらぼうに言った。
「……俺も正確なことを知ってるわけじゃないけど。」そんな前置きをしてから、涼矢は千佳に向かって話し始めた。「あいつが大げさに話してただけかもしれないしね。でも、あったと思うよ。そういう、一晩限りの相手と過ごすこと。一度や二度じゃなく。」
千佳は「そう。」と小さく呟いて、うつむいた。
「大学でもいろんな奴に声かけてたのは知ってるだろ。その内の何人かは実際応じてた。面白半分でね。そういう噂を聞きつけて、向こうから哲にコンタクトを取ってくる奴もいた。さっきのムカつく奴もそうなんだと思う。……でも、たぶん、それは去年までのことで、俺の知ってる限りじゃ、留学のことを真剣に考えはじめてからは、あいつもそれなりに真面目にやってた。それどころじゃなかっただろうし。」
「去年までは単なるヒマつぶしでそういうことしてたの?」
「いや、それは。」涼矢は言い淀んだ。
代わりに和樹が言った。「哲はすごい淋しがり屋なんだよ。1人でいられないんだ。」
千佳は和樹の顔を見つめ、それから涼矢、響子と順繰りに見た。「その淋しさは、私たちじゃ埋められないものだったのかな?」
響子が微笑みかける。しかし、どこか悲しげな笑顔だった。「埋められる部分と、そうじゃない部分があるんじゃない?」
千佳は響子の言葉の意味を確かめるように、また涼矢と和樹の顔を見た。「そうなの?」
「たぶん。」と答えたのは涼矢だ。
千佳は今度は涼矢1人の顔を凝視した。何かを言いかけて口を開くが、結局何も言わずに、うつむいた。少し間があってから、ぽつりと言う。「私、今、ずるい言い方したね。」
「ずるい?」涼矢が聞き返す。
「私たち、じゃない。私じゃだめだったのかって。本当はそう聞くべきだった。」
「千佳。」響子が千佳の二の腕に触れる。
千佳は顔を上げ、響子を見た。「大丈夫、涼矢くんも知ってるの。……正直言うと、響子に話すより先に、涼矢くんに話した。」それから和樹を見た。「和樹くんは知らないかもしれないけど、私、哲ちゃんのこと、好きだったの。ああ、これもずるい言い方だな。本当はね、まだ好き。諦めてるけど、吹っ切れてはいない。」
和樹は既に知っていたとは言わず、そして初耳だと嘘もつかず、ただ頷いた。
「高村と同じよ。振られたのに、吹っ切れてない。」
「違うでしょ、千佳は。」響子が諭すように言う。
千佳はその響子を見る。「響子は分かると思うけど、私って、私のことを好きにならない人ばかり好きになっちゃうんだよね。昔からそう。私のこと好きって言ってくれた子とつきあったこともあるけど、うまく行かなかったもんね。」
自嘲するように話す千佳に、響子は少し困った表情だ。「千佳は慎重なのよ。ちょっと慎重すぎるぐらい。……悪く言えば臆病なんだと思う。」
「そうね。」千佳はニッと口角を上げた。「そういう自分が、全然好きになれない。」それから涼矢を見る。「涼矢くんのこと好きだった、あの女の子みたいにはなれないんだ、私。」
和樹はピクリと眉を上げて、涼矢を見る。涼矢はその気配に気づいて、和樹を見た。「エミリのこと。」
「エミリさんっていうの? 名前まで可愛いのね。」千佳が笑う。「可愛くて、気持ちを伝える勇気があって、ダメでもちゃんと気持ちにけじめつけて、ちゃんと涼矢くんと友達になった。私もそういう、可愛くてかっこいい女になりたかったな。でも無理、哲ちゃんのそんな話聞いても嫌いになれないし、かといってもう一度気持ちをぶつける勇気もないし。最低だよね。」
「千佳ちゃんは哲に告ったんだろ?」
和樹の言葉に、千佳は恥ずかしそうに頷いた。「もちろん、ダメなのは分かってたんだけどね。その後も哲ちゃんは普通に接してくれたのに、友達のままでいいやって割り切ることもできない。哲ちゃんが留学しちゃって淋しいくせに、心のどこかでは顔を合わせなくて済むようになってホッとしてる。ほんと私って女々しくて……。エミリさんとは大違い。」
「いや、そう言うなら千佳ちゃんのほうが勇気あるよ。だってさ、エミリはこいつに告ってないんだよ。」
千佳が顔を上げた。
「卒業した後の春休みに、同級生10人ぐらいで遊びに行った。そこで俺が、みんなの前で涼矢とつきあってるってバラしたんだ。エミリの気持ちも、涼矢の気持ちも考えずに、一方的に。」
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