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第712話 何日君再来 (2)

 それからしばらくして、和樹のもとに涼矢から電話があり、奏多のことを聞かされたのだ。気は進まないが嫌と言うわけにもいかず、翌日の今日、こうして涼矢の車で奏多との待ち合わせ場所に向かっている。  涼矢は包み隠さず自分の感情を和樹に話した。「奏多に何を聞かされるのかなって、なんだか不安で。前はそんなの、めんどくせえって思うだけだったのに。」  涼矢がそう言った時の返事が、「経験したからこそ」だった。 「経験?」 「一応俺らもさ、それなりにいろんなことあったわけだろ? そのせいで、おまえはそうやって、めんどくせえって切り捨てられないものが増えたってこと。おまえのすることや言ったことに一喜一憂する人がいるってのも知って、責任みたいなものを感じるようになったんじゃないの。」 「責任、ねえ。あまり自覚ないけど。」 「あくまでも俺の意見。」 「やっぱ、和樹に来てもらって良かった。」涼矢は前方を見ながら微笑んだ。今日は和樹を迎えに来た時から眼鏡をかけていた。 「それにしても、なんでわざわざ隣の市まで行くの。」 「さあ。奏多ができるだけ遠くで会いたいって言うから。」 「その理由は聞かなかったんだ?」 「行きゃ分かるだろ。」 「んで、約束の時間、2時?」 「ああ。」 「このペースだとかなーり早く着きそうじゃない?」 「そうだな。思ってたより道路が空いてる。」 「涼矢くん。」 「なんだよ、気持ち悪い声出して。」 「ひっでえ。」和樹は笑う。笑いながらも、言った。「どっか寄ってかない?」 「……どっかって。」  和樹は涼矢の太ももに手を伸ばす。「なあ、昨日も今日も、チューすらしてないの、気が付いてる?」  たまたま一時停止線で車を停めたところで、涼矢は横目で和樹を見た。「もちろん。」 「だから。」 「……ホテル寄るほどの余裕はねえよ。」 「分かってるよ。そこまでは望まない。」 「じゃあ、どこ行く?」 「人目のないとこ。おまえ、そういう裏道とか見つけるのうまいじゃん。」 「このへんの道には詳しくないし……真昼間だし。」 「おまえがそんなの気にしてるとは思ってなかった。」 「気にするよ。」正確に言えば、和樹のために気にしているのだけれど。 「今だって周りに車なんかないし。どこだっていいよ、適当に車停めろよ。」  走っている道路沿いには延々と畑が続く。たまに民家らしきものはある。時折、フルーツ狩りができる農園、あるいはラブホテルへ誘導する看板が道路脇に立っている。立ってはいるが、どれもそう近くにあるわけではない。 「何もなさ過ぎて人目に付きそう。」涼矢は呟き、それから、カーナビではなくスマホで周辺地図を見始めた。「あと10分ぐらい走れば市内に入るから、そこまで行っちゃってカラオケボックスにでも行ったほうがマシかな。」 「いいよ、それで。」 「1時間もいられないよ?」 「いいってば。どっちにしろ待ち合わせの時間まで、他にひまつぶせるところもないだろ。」 「まあね。」  そんな流れで、2人は15分後にはカラオケボックスの店内にいた。室内に入ると、和樹はすかさず天井の隅を見る。 「あれが監視カメラな。」 「防犯カメラだろ。」涼矢が笑う。  和樹はドアの陰に立ち、指で涼矢を招く仕草をした。カメラの真下だ。「ここなら死角じゃない?」 「まったく。」苦笑いしながらも涼矢は和樹の元に行く。和樹の肩を抱き、キスをした。「これで満足?」 「おまえは?」 「不満。」  和樹は笑って、涼矢の後頭部を引き寄せ、再びキスをした。涼矢の手は肩から腰に移り、2人は身体を密着させた。 「なあ、奏多の話ってすぐ終わるよな?」和樹は涼矢の首に手を回したまま言った。 「分かんないよ。深刻そうな声は出してたけど。」 「てことはカオリ先生絡みかな。あ、でも、おまえを頼るってことは金かも。ギャンブルで借金作ったとか、そういう。」 「奏多はギャンブルなんかしないだろ。」 「真面目な奴ほどハマる時はハマるらしいよ。」 「それも含めて、会えば分かる。今考えても仕方ない。」涼矢は和樹の耳にキスをし、耳孔に舌先を入れた。 「んっ。」和樹はぎゅっと目をつぶり、体をよじってその舌先を避けようとした。 「そんな声出すなよ。」涼矢はがっしりと背中までホールドして、和樹の動きを封じた。 「仕方ねえだろ。」 「最後までできないのに、生殺しもいいとこだ。」 「涼矢が余計なことするから。」 「おまえが誘ったくせに。」涼矢は耳朶を甘噛みする。 「やめろって。」  涼矢は抵抗する和樹をじっと見る。ふいにその顔が和樹の視界から消えた。涼矢は和樹の足元にしゃがみこんでいた。そこから和樹を見上げる。眼鏡の奥の涼矢の目は愉快そうに輝いているかのように、和樹には見えた。そして案の定、良いアイディアが思いついたとばかりに、涼矢が言った。「ここで口でしたら、バレると思う?」 「バッ……。無理だろ、それは。」 「そうかな?」  涼矢がそう言った瞬間に内線電話が鳴り響き、2人は文字通り飛び上がって驚いた。和樹は目の前の壁掛け電話の受話器を取る。

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