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第719話 何日君再来 (9)
「馬鹿、そんなのいいから、早く。……ああっ。」思いのほか奥のほうまで涼矢の舌がたどりついて、和樹は全身を震わせた。さっきまでの硬くて大きなものとは違う感触。今までもそうされたことはあったけれど、羞恥が先に立っていた。今も恥ずかしくないわけではないが、それよりも快感のほうがはるかに大きい。「や、あ、あんっ、だめ、だって、涼、それ、もう、やめ……。」
いくら言っても、涼矢はやめなかった。ようやく舌が離れたと思うと、今度はペニスを舐った。和樹のそれは既に完勃ちだ。それを指でしごき、溢れ出る先走りを塗りつけるようにしながら、更に舌で愛撫する。それだけでイッてしまいそうな和樹だった。「涼矢ぁ。」甘い声で名前を呼ぶと、涼矢がようやく顔を上げた。潤んだ目で和樹は言う。「もう、挿れて。」
「中でイキたいんだ?」
和樹は恥ずかしそうに顔を背けた。このタイミングのその仕草は肯定と同じ意味だ。涼矢は体を起こして、和樹の開いた足の間に自分のペニスを押し当てた。そこからはもう躊躇いなく挿入していく。
「あっ、あっ、あっ、いい、涼っ。」
和樹の手が何かを探すように動いた。枕に届くと、それを握る。
「涼、遠い。」と和樹が言った。――言った気がした。が、その意味するところが分からないでいると、和樹の手は枕を離して、空を切り、涼矢のほうへ伸びてきた。「来て、もっと、こっち。」
涼矢は体を倒して、極力和樹と密着するようにする。和樹も両手を伸ばして、必死に涼矢にしがみつこうとする。半開きの唇が物欲しそうで、涼矢は自分の唇でそれを塞ぐ。
「んっ、んっ。」とまた和樹の咽喉が鳴る。
「好きだよ。」涼矢が言う。
その言葉には答えないくせに、和樹は涼矢を抱きしめる腕にぎゅっと力を込めて、言った。「涼、奥、来て。もっと。」
和樹のそんな淫らなリクエストに応えるべく、涼矢は和樹の腰が浮くほど抱え込むようにして、ぐい、と中へと入っていった。
「やばい、そこ、あ、も、だめっ……。」和樹がビクビクと全身を痙攣させた。つま先までもピンと張りつめさせている。
「イッた?」
「イッた、けど、あっ、やだ、またイクッ。」その先は言葉にならなかった。激しく喘いでは体をしならせた。何度もそんな昂ぶりを見せた挙句、最後は「くっ。」と短く息を吐いて、そうしてやっと、筋肉を張りつめさせていた和樹の体が、元の柔らかさに戻る。和樹は、打って変わって大人しく、くったりと横たわっているだけとなった。
「和樹?」涼矢が声をかけても反応しない。意識を飛ばしているのだと知ったが、自分はまだ達していなかった。ぐにゃりと脱力している和樹の中を何度か往復して、ようやく射精に至った。和樹がその手の人形か、あるいはいかがわしい薬でも飲ませて眠らせた相手のような気がして、罪悪感が湧き上がる。だが、どうしようもなかった。
コンドームが脱げないように気を付けながら、ペニスを抜く。和樹が「ん……。」と小さな声を出した。まだ目は開けないが、反応があったことにひとまず安堵する涼矢だった。
「和樹。」事後の処理を終えて、和樹の隣に横たわる。頬を軽く叩きながら、声をかけた。「大丈夫?」
「ん……。あ?」和樹は間の抜けた声を出した。「え、俺、寝てた? 寝落ち?」瞼をこすりながら言う。
「寝落ちと言うか……イッて、そのまま。」
「マジか。どのぐらいの時間?」
「10分も経ってないよ。」
和樹はまだ覚醒しきってない顔だ。「まだ昼?」
「うん。……いや、夕方?」
「あ、俺……。」和樹はなんとなく股間をもぞもぞさせる。
「今のは、出してない。イッてたけど。俺だけ。」
「マジで。」
「うん。ドライで。」
「やっべ。」和樹は気恥ずかしそうに頭を掻く。
「覚えてないの?」
「……大体は覚えてる。その、寝落ちの寸前までは。」
「だから、今のは寝落ちじゃなくて。」
「るせ、いいんだよ、言い直すな。」
「恥ずかしい?」涼矢は和樹の手を取り、甲にキスをした。
「……たりめえだろ。」
「恥ずかしがらなくてもいいのに。」涼矢は隣に横たわる和樹を押して、自分の側に背中が来るように体勢を変えさせると、背後からハグをした。「大好き。」
「ああ。」ぶっきらぼうに和樹が言う。
「和樹は、俺のこと。」
「好きだよ。」食い気味に答える。「好きでもない奴とこんなことしねえだろ。」
「どうかな、和樹はエッチ好きだから、相手が俺じゃなくても。」
和樹が涼矢の腕の中で勢いよく反転する。「おまえそれ、冗談でもそういうこと言うなよ。」
「……ごめん。」
和樹は涼矢の胸元に額を押し付けるようにした。「ほんとにさ、そういうの、二度と言うな。俺のほうが不安なんだから。」
「そんなわけ。」
「あるよ。だっておまえ……。」和樹はそこで押し黙った。
「哲のことなら、不安にさせて悪かったと思ってるけど、言った通り、もう絶対そういう。」
「違う、そのことじゃなくて。」
「他に不安要素なんか。」
「だっておまえ。」同じセリフで、また言葉を詰まらせる。
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