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第744話 Endless Summer (2)
「そんなこと聞かれても。」涼矢は口籠もるが、それなりに真剣に理由を考えている様子だ。しばらくして口を開く。「……俺、女の子たちから親しまれるタイプじゃないからさ、俺の近くに来る子ってのは、委員会で一緒に活動しなきゃならないとか、そういう、仕方ない事情があるパターンばかりで。」
和樹はプッと吹き出した。「確かにな。」
「でも、エミリは気づくと近くにいることが多くて。近くにいる必要ない時でも。あと……なんか優しかった。」
「エミリが?」
「うん。」
「どんな風に?」
「本当に聞きたいのかよ、こんな話。」
「聞きたいでーす。」
「……擦り傷作ると、絆創膏貼ってくれたり。」
「え。」
「だから、絆創膏。」
「いや、それぐらいするだろ、普通に。」
「部活中じゃない時だよ。で、エミリが自分で持ち歩いてた、キャラクターの絵のついた可愛い絆創膏だった。」
「だとしても、誰かが怪我して、自分が絆創膏持ってたら、やるだろ、それぐらい。」
「それは和樹だから普通にやってもらえただけで、俺はそういうの普通じゃないの。せいぜい保健委員が保健室から絆創膏もらってきてくれるとか、その程度なんだよ、分かるか?」
「その保健委員が自分の絆創膏持ってたら、まずそれを出すだろ。でも持ち歩いてる奴のほうが珍しいよな? 俺だってそんなもん持ち歩いてない。エミリはたまたま自分のを持ってたから、出してくれたってだけのことじゃないの。」
「いや、キャラつきの可愛げな絆創膏は、どうでもいい男には使わせないだろっていう……つっても、和樹には分かんねえんだろうな。おまえはそういうの、特別なことじゃなかったんだろ。そうだよな、おまえが怪我すりゃ女の子たちは寄ってたかって介抱してくれるもんな。」
「涼矢くん、なんか言葉に刺があるぅ。」
「トゲトゲしく言ったんだよ。」
和樹は笑った。「俺だって分かるっつーの。ま、確かにあのエミリがそんな可愛いことしてたとしたら、やっぱおまえのこと意識してたんだなって思うよ。エミリってああ見えてクソ真面目だしさ、人を疑ったりもしなくて。だからストーカー野郎にひっかかったりもするんだろうけど……。彼女がお前を好きになったのも、分かるよ。おまえは嘘つかないから。おまえの言葉には裏表がないから。」和樹は涼矢の肩を抱き寄せ、耳元でこっそりと囁いた。「でも、俺は知ってるよ? おまえだって嘘をつくって。」
涼矢が和樹を押しやると、和樹は素直に体を離した。もう住宅街の路地に入っていて人通りは少ないが、人目がまったくないというわけではない。
「嘘なんかついてない。」涼矢は呟くように言い、少しの間を空けて「今は。」と付け加えた。
哲から告白されていたこと。明生と連絡を取り合っていたこと。嘘と言うよりは「隠しごと」だったけれど、和樹を欺いていたという点では同じだ。でも今はもうそれらも明かしてしまった。初恋の人のことも、二度目に好きになった人のことも、本当のことを言った。わざと嘘をついて隠していることなど、もうない。そして、和樹に対する最大の嘘は、和樹への恋心だ。3年間、嘘をついていた。都倉和樹に対して恋愛感情などないと。和樹を困らせたくなかったから、本心を押し殺して、長いことついていた嘘。
和樹が言う。「おまえがつく嘘なら、信じるよ。……信じるふりぐらいはできるよ。おまえの嘘って、いっつも俺のためだもんな?」
「……そんなこと、ないよ。」涼矢はうつむきがちになる。無意識に早足にもなった。
「でもさ。」和樹が手を伸ばして、涼矢の腕をつかんだ。それでも涼矢は立ち止まらなかったから、そのまましばらく歩いた。「嘘なんかつかなくて済むように、俺も頑張るんで。」
「は?」そこでようやく涼矢が足を止める。
「俺が嫌な思いしないように嘘ついてたんだろ? ってことは、俺がいちいち傷つかなきゃ、おまえが嘘つく必要もないだろ? だから、頑張る。おまえがそういう心配しないでいいように。」
「……頑張るって、何をどう頑張るの?」
和樹は眉を上げて、目を丸くして「え?」と言ったきり、黙り込んだ。
「和樹が頑張ることなんかないよ。」涼矢は再び歩き出す。
和樹は慌てて小走りになり、その隣に肩を並べて歩いた。更には涼矢を追い抜いて、前に回り込むようにして話しかけた。「おい。」
「何。」涼矢は歩き続けるから、和樹も足を止めずに、斜め後ろを見るようにして歩かねばならなかった。
「傷つけないように頑張るって言って、何をどう頑張るって言われるとは思ってなかったんだけど。」
「ああ、そう。」
「ああそう、じゃなくて。俺は今までおまえに悪いことしたなって思って。」
「してないよ。なんで思うの?」
「だから、おまえに嘘つかせるようなこと、してたから。」
「嘘はつくほうが悪いだろ。」
「でも、俺が傷つくと思って黙ってたり、嘘ついてたりしてわけだろ?」
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